ようするに、リバタリアンのニコラ・サルコジ(1955〜、2007.5〜2012.5)前大統領に対抗して、オランドは、雇用と成長、そして格差解消を公約としてかかげたのだ。
サルコジは「所得税減税が人びとの勤労意欲を高め、経済成長に寄与する」、「福祉予算の削減により財政規律を維持する」とのレーガノミクスの信奉者だったかのようだ。そのモットーは「もっと働き、もっと稼ごう」だった。他方、オランドは、リベラル左派(社会民主主義)の立場から、「緊縮財政は経済成長をさまたげる」、「財政支出による景気テコ入れは、短期的には財政赤字の拡大になるが、経済成長による税収増の結果、中期的には財政再建をもたらす」と主張し、さらには所得格差の拡大に歯止めをかけようとする。
リベラル色が褪せた民主党
日本の民主党が正統派リベラル政党だったのなら、オランドとおなじく「雇用と成長」を金看板にかかげ、消費税増税ではなく、富裕層への所得増税により、所得格差の縮小と財政赤字の削減をめざすべきだった。2012年衆院選の惨敗は、民主党政権の経済無策、とりわけ野田政権の消費税増税に起因するとみてよい。正統派リベラル政権ならば、まずは正規雇用の確保と賃金の上昇を第一義とし、そのために必要不可欠な経済成長に取り組み、消費税増税ではなく個人所得税制の累進度を高めることにより財政赤字の縮減をはかりつつ、公共投資を誘い水とする内需誘発効果を発揮させ、国内総生産の成長と雇用の拡大をめざすべきであった。
安倍政権の「第3の矢」である成長戦略については、産業競争力会議、規制改革会議などで議論された。規制改革を重視する民間議員と、産業政策的な官主導の成長戦略を提唱する議員とに二分されており、当初から意見の集約はむずかしそうだった。また、民主党の日本再生戦略とおなじく、提案される諸施策のいずれもが、即効性を欠くもの、あるいは効果の有無の判断を事前にくだしにくいものばかりであり、第3の矢が的を射抜き、拍手喝采を浴びるとはとても思えない。
次回は7月4日更新予定です。
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