会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。

戦略を考えるとき、いちばん大事なこととは?Photo: Adobe Stock

戦略が企業の命運を決める

 経営においては、「企業の方向づけ」が最も重要だと私は考えています。

 企業の成否の8割は方向づけで決まるとまで考えています。

 それは「何をやるか、やめるか」ということですが、「戦略」を立案すると言い換えることができます。

 戦略を考える際に必要なことは、以前に説明したミッションやビジョン、理念を前提としながら、「外部環境」と「内部環境」を分析することです。

 戦略が間違っていると、どんなに従業員が頑張っても結果が出ません。

 場合によっては、会社を潰してしまうことにもなりかねません。

 企業が生き残るためには、戦略が正しいことが必要条件です。そのパフォーマンスを高めるのが「資源の最適配分」であったり、「人を動かす」なのです。

「外部環境」と「内部環境」を分析する

 戦略を策定するためには、まず「外部環境」を分析しなければなりません。

「外部環境」とは、企業自身がコントロールできないこと全てを指します。景気の状況もそうです。

 ロシアのウクライナ侵攻による世界の分断や米国のトランプ現象など、政治が内向きになっていますが、自由貿易協定が破棄されるようなことがあれば、海外進出戦略も変わらざるをえません。

 さらには、人口動態の変化や、環境問題、法律にかかわる問題なども外部環境です。

 また、お客さまやライバル企業、仕入れ先の動向なども外部環境です。そうした動きは、企業自身がコントロールできるものではありません。

 逆に「内部環境」とは、自社でコントロールできることを指します。ヒト、モノ、カネ、さらには経営陣の時間や情報などもこれに当たります。

 資源の限界が戦略立案の制約条件であるとも言えますし、ライバル他社との相対的な「強さ」や「弱さ」とも言えるものです。

 このような外部環境と内部環境を分析したうえで、ミッションやビジョン、理念に基づいてどういう「方向づけ」をしていくか、つまり先に述べた「何をやるか、何をやめるか」ということを決めることが「経営」の非常に重要な仕事なのです。

戦略で一番大切なのは
「他社との違い」を明確にすること

 今の時代で、戦略立案を行う際に、一番大切なことは他社との違いを明確にすることです。

 言葉を換えて言えば、「差別化」するということです。それを最終的には、商品やサービスで差別化するのです。先に説明した「Q、P、S(クオリティ、プライス、サービス)」の組み合わせで、他社との差別化を図らなければなりません。

 ポイントとなるのは、「今の時代で」という点です。どんな時代でも差別化すればいい、というものではないのです。

 例えば、第二次世界大戦後すぐの頃や、1980年代後半の日本におけるバブル時代などは、需要が供給を上回っていた時代、右肩上がりの時代でした。21世紀初頭の中国もそうでした。需要が供給を上回っている時代は、実は他社との違いを明確にしなくても、トップランナーがやっているQPSの組み合わせを、そのまま真似ても絶対に売れました。

 だから、あえて差別化戦略を取らなくても、トップランナーとほぼ同じ物か、できれば「フォロワー」ですから若干QPSを工夫するくらいで、うまくいったのです。

 昭和30年代は優秀な学生は、こぞって繊維産業に就職しましたが、その後、多角化に成功したのも繊維産業でした。

 東レは元々「東洋レーヨン」でしたし、帝人は「帝国人造絹糸」でした。旭化成も元々ベンベルグなどの化学繊維が主流でしたが、今では全売上高の1割程度しか繊維事業はありません。へーベルハウスやケミカル、そしてサランラップRなどのほうが目立つようになっています。

 これら元々の繊維産業は、日米繊維摩擦などで繊維以外への多角化を迫られたわけですが、日本が高度成長期の需要過多の時代であったので、多角化が成功しやすかったのです。

 一方、昭和50年代以降、鉄鋼産業も多角化を積極的に行いました。

 半導体や変わったところでは、製鉄所の排熱を利用したウナギの養殖などに取り組みました。新日本製鐵(当時、現在は日本製鉄)は、北九州にスペースワールドというテーマパークを建設したりしました。中には、神戸製鋼所の発電事業のように成功したものもありますが、大部分は失敗しました。

 その理由は、鉄鋼会社が多角化を進めた時代は、高度成長が終わり供給過剰の時代だったからです。繊維産業の経営者が優秀で、鉄鋼業の経営者がそうでなかったというわけではありません。供給過剰の時代は、強みを活かして「他社との違い」を鮮明に出せなければ、成功はおぼつかないのです。

 現代の日本、さらには大部分の先進国や中国もそうですが、供給過剰の状態です。

 特に、工業製品はそれが顕著になっています。大量に生産するほうがコストが下がるからです。そして供給過剰になると、QPSの組み合わせで他社との違いを明確にしなければ競争には勝ち残れません。

 トップランナーであっても、いつまでトップでいられるか分からないのが、供給過剰、物余りの時代の特徴なのです。

 もちろん、供給過剰でなくとも差別化は重要ですが、この時代の方向づけに関しては、他社との違いをいかに明確にしていくか、差別化していくかということが、すごく重要なのです。それを念頭に置いておかないと勝てないのです。

(本稿は[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動の一部を抜粋・編集したものです)

小宮一慶(こみや・かずよし)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。