会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
Photo: Adobe Stock
コミュニケーションは
「意味」と「意識」の両方が大事
先に例に出したセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文元会長は2016年に退任しました。
会長は在任中にスーパーバイザーを集めた会議で、数千回話をしたそうですが、考え方を伝え、ものごとを「徹底」するには「意識」を伝えることが必要です。
私は、コミュニケーションは「意味」と「意識」の両方だと思っています。
「◯◯という商品を重点的に拡販する」
「△△地域のお客さまへの訪問頻度を増やす」
などは意味です。
一方、皆さんは、同じことでも好きな人に言われたらやりたいけれども、嫌な人に言われたらやりたくないということがあると思います。これは「意味」は同じでも「意識」が違うからです。
「意識」を伝えるのには、面と向かって話すのが一番です。
私も講演会で話すのが好きですが、それは「意識」を伝えやすいからです。
鈴木敏文元会長は、「意識」を伝えるのがうまかったのだと思います。元会長が退任し、これまでの「徹底」が、そのまま維持できるのかどうかを私は経営コンサルタントとしてとても興味をもって見ています。
それは、1店舗1日当たりの売り上げの変化に表れてくると私は考えています。これが、「経営学」と実践の「経営」の違う所です。
「小さな行動」を徹底してやらせられるかが、リーダーにとってとても重要ということですが、そのためには「意識」を浸透させ、ときには厳しいことを言う勇気が必要で、そのベースとなる信念が必要だということです。
戦略思考だけで経営すると、
会社はうまくいかない
逆に言うと、それがなくて戦略思考だけで経営すると、会社はうまくいかないのです。
確かに正しい戦略は必要条件です。「方向づけ」が間違っていれば会社は成り立ちません。
しかし、本当に会社がベストパフォーマンスとなるかは、「人を動かす」ことにかかっています。その裏には「徹底」や「信念」といったキーワードがあるのです。
コンビニの例をとっても、戦略的には、セブン‐イレブンと、ファミリーマートやローソンはそれほど大きな違いはありません。それでも、しつこいようですが、毎日全店で2割の売り上げが違うのです。
頭の良い人は頭で経営できると思ってしまいがちです。頭が良いに越したことはありませんし、色々なことが理解できて便利ではあります。
しかし、「信念」や「徹底」、さらには「教えること」と「伝えること」の違いなどが理解できていなければ、結局は経営者として成功できないのです。働く人のベストパフォーマンスが出ないからです。
決して、難しいことではありません。自分の信念、考え方を持てばいいのです。
正しい考え方を持ち、それを信じて、部下に伝える。自身も指揮官先頭でそれを実行する。
頭で理解しているだけで、「こういうふうにうまいことを言えば、人は動くんじゃないか。金儲けができるのではないか」といった程度では、本当に人を動かすことはできないのです。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




