会社を伸ばす社長、ダメにする社長、そのわずかな違いとは何か? 中小企業の経営者から厚い信頼を集める人気コンサルタント小宮一慶氏の最新刊『[増補改訂版]経営書の教科書』(ダイヤモンド社)は、その30年の経験から「成功する経営者・リーダーになるための考え方と行動」についてまとめた経営論の集大成となる本です。本連載では同書から抜粋して、経営者としての実力を高めるための「正しい努力」や「正しい信念」とは何かについて、お伝えしていきます。
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良い仕事をした結果、儲かる会社になる
儲けるためだけの会社に命をかけてまで働こうとする人は少ないでしょう。そこには使命感がないからです。
経営者にとって、良い仕事をすることで、その結果「儲かる」会社を作ろうとすることが正しい考え方ですが、「儲ける」ための会社と考えていると、結局は儲かりません。
「お客さまに喜びを与えることで社会に貢献する」「働く人を幸せにする」といったような、ミッションとそれに基づくビジョン、支える理念――つまりベースとなる「考え方」が経営者をはじめ全従業員に浸透し、それらを戦略のみならず、店舗づくり、商品・サービスにまで貫き通している会社こそが、実は成功が長続きする会社なのです。
経営書の名著の一つ『ビジョナリー・カンパニー』(ジェームズ・C・コリンズ、ジェリー・I・ポラス著、山岡洋一訳、日経BP)にそのことは詳しく書かれています。
ビジョナリー・カンパニーとは、文字通りビジョン・理念をしっかり持っている企業を指します。
この本の冒頭では、そういった会社と、比較対象としてビジョン・理念がそれほど明確でない会社の60年間にわたっての投資利回り、つまり、どちらの会社の株を買えば儲かるかについて、調査した結果が説明されています。
結果として、ビジョナリー・カンパニーのほうが、そうでない会社より6倍以上も投資収益が高くなったと言います。
つまり、お金ばかりを追い求めた会社より、あるべきビジョン・理念を追求した会社のほうが、長期的な投資利回りが高かったということです。
そして、長期的な投資利回りが高かったということは、会社自体もそれだけの収益をあげていたということになります。ビジョン・理念を追求していた会社のほうが、「結果的に」儲かっていたということなのです。
良い仕事を目的にしている会社のほうが、
活き活きと働ける
このように、「結果的に儲かっていた」ということが、とても重要です。
企業の目的、つまり存在意義をしっかり確立、徹底できている会社のほうが、お金儲けだけを追い求めていた会社よりも、結果として成功するということなのです。
同じことが、マックス・ヴェーバーが書いた『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』(岩波文庫)にも書かれています。社会学を勉強する人なら誰でも一度は読む本ですが、プロテスタントがなぜ経済的にも豊かなのかということにも触れています。
その理由は、プロテスタントにとって働くこと自体が、神への奉仕とされているからだとヴェーバーは解説しています。だから、プロテスタントは一生懸命働きます。すると、結果として儲かるということになるわけです。
つまり、『ビジョナリー・カンパニー』と同じことなのです。
ビジョン・理念を追求することは、いわば、お客さまに喜ばれ、働く仲間に喜ばれるような「良い仕事」をしようと努力することでもあります。
そして、それを追求している会社のほうが、お金儲けを追求している会社よりも、実はずっと儲かっているのです。
私が経営コンサルタントとして現場で多くの会社を見ていても、儲けることばかり重要視している会社よりも、「良い仕事をしよう」「お客さま第一を徹底しよう」ということを本当の意味で追求している会社のほうが、結果的により儲かっているというのが実感です。
お客さまもそのような会社が好きですし、働いている人たちも、お金を目的にしている会社より、良い仕事を目的にしている会社のほうが、活き活きとしています。
そちらのほうが人から褒められて楽しいからです。
(本稿は『[増補改訂版]経営者の教科書 成功するリーダーになるための考え方と行動』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
10数社の非常勤取締役や監査役、顧問も務める。
1957年大阪府堺市生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(現三菱UFJ銀行)に入行。在職中の84年から2年間、米ダートマス大学タック経営大学院に留学し、MBA取得。帰国後、同行で経営戦略情報システムやM&Aに携わったのち、91年、岡本アソシエイツ取締役に転じ、国際コンサルティングにあたる。その間の93年初夏には、カンボジアPKOに国際選挙監視員として参加。
94年5月からは日本福祉サービス(現セントケア・ホールディング)企画部長として在宅介護の問題に取り組む。96年に小宮コンサルタンツを設立し、現在に至る。2014年より、名古屋大学客員教授。
著書に『社長の教科書』『経営者の教科書』『社長の成功習慣』(以上、ダイヤモンド社)、『どんな時代もサバイバルする会社の「社長力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』(以上、ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『「1秒!」で財務諸表を読む方法』『図解キャッシュフロー経営』(以上、東洋経済新報社)、『図解「ROEって何?」という人のための経営指標の教科書』『図解「PERって何?」という人のための投資指標の教科書』(以上、PHP研究所)等がある。著書は160冊以上。累計発行部数約405万部。




