AIが台頭する現代において、企業や社会から求められる人物像が変わってきている。「その影響が、最もわかりやすい形で反映されているのが『大学入試』」だと推薦入試専門塾リザプロ代表の孫辰洋氏は、『12歳から始める 本当に頭のいい子の育てかた』のなかで語る。
また孫氏は、1万件以上の志望理由書と推薦入試の面接を分析し、合格にたどり着いた生徒には「点数では測れないが大学や社会で高く評価される資質」が共通しているともいう。それはどのようなものか。本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社書籍オンライン編集部)

黒板を見ている少年Photo: Adobe Stock

AIの台頭によって変わる、社会が求める人材像

 AIの進化により、知識量や作業スピードでは人間が太刀打ちできない時代になった。

 それに伴い、大学受験のあり方も「高学力の生徒を集める」ことから「多様な学生に探究の場を提供する」ことへとシフトしている。

むしろ「多様なバックグラウンドを持つ学生に、探究と成長の場を提供する場所」へと変わっているのです。たとえば、プロジェクト型学習、留学生との合同セミナー、地域や企業と連携した実践型教育プログラムなど、単なる座学ではない新たな学習スタイルが急速に導入されています。(P.26)

 そして、「こうした新しい学びを自分の成長につなげられるのは、テストで100点を取る子ではなく、『問いを自分で立て、考え抜く力』を持っている子です」と孫氏は語る。

 その結果、今の大学入試は「テストの点を取る力」だけでは測れない、多様な評価軸へとシフトしている。

 孫氏は「これは単なる入試改革ではなく、社会が必要とする人材像そのものが変わってきている証拠です」と指摘する。

 では、社会が必要とする人材像に必要な力はどのようなものなのか。そして、それはどのようにして身につければよいのだろうか。

合格する生徒に共通する「10の力」

 孫氏は、1万件以上の志望理由書と推薦入試の面接を分析した結果、「志望する大学を見つけ、合格にたどり着いた生徒には『点数では測れないが大学や社会で高く評価される資質』が共通していることがわかった」と語る。

 その共通項を整理すると、「信念(自分の軸を持ち、成長し続ける力)」や「巻き込みマインド(仲間や大人を巻き込みながら挑戦する力)」「逆境マインド(失敗や挫折を糧にして跳ね返す力)」など、「10の力」に集約されるという。

 これらはどれか一つだけ突出していればいいものではなく、すべて完全に備えていなければならないものではない。「組み合わせでその人らしさを形づくるものです」と孫氏は語る。

 今回は、この「10の力」の中から「信念(自分の軸を持ち、成長し続ける力)」を紹介する。

自分で考え、行動するために必要な「信念」とは

「信念」とは、社会や環境がどれだけ変化しても、自分のなかに「これだけは譲れない」という価値観や行動の基準(=軸)を持ち続ける力のことだ。

ここで言う信念とは、大きな理想や高尚な目標である必要はありません。「こういう人間でありたい」「こういう状況では、こうしたい」という、人生の意思決定に関わる行動原理のようなものです。
たとえば――
・なぜこの活動をするのか?
・なぜその進路を選ぶのか?
・自分が大切にしているものは何か?
こうした問いに対して、自分の言葉で答えられるかどうかが、信念の真価です。(P.88)

 なぜ信念が必要なのだろうか。

 それは、「信念があると、子どもは目標に向かって自主的に努力するようになるから」と孫氏は語る。

たとえば、「人の役に立つ仕事がしたい」「小さい子と関わることが好き」といった想いがあれば、それが日々の学びや行動に方向性を与え、意欲の源になります。
逆に信念が曖昧な子は、「何のためにやっているのかわからない」という状態に陥りやすく、モチベーションが維持できません。流されやすく、自分で選び取る力が育たず、結果として失敗や批判に脆くなってしまうこともあります。(P.89)

 これは確かにそうだろう。

 筆者は以前、小学校1年生で引きこもりになってほぼ小学校に行かなかった人に取材をしたことがある。

 その人は、「プロ野球選手になりたい」と思うようになって、その夢を叶えるために中学校から通い出したと話してくれた。

 その時にやはり「好きだとか、こうなりたいという目的があれば人は動くのだな」と思ったものだ。

子どもの「自分軸」を掘り出す4つの習慣

 では、信念を育てるには、どのような経験や育て方をすればいいのだろうか。

 孫氏は、次の4つの方法を挙げる。

1. 自分で選ぶ経験を積ませる
進路・習い事・テーマなど、親が決めるのではなく、「自分で選ばせる」「選んだ理由を言わせる」ことを習慣にする。(P.91-92)
2. 問いを立てる機会をつくる
読書・探究学習・映画鑑賞などを通して、「あなたはどう思う?」と問いを立てる機会を増やす。
(P.92)
3. 価値観を言語化する
「どんな人が好き?」「その人のどんなところがいい?」という対話から、子どもの大切にしている価値観を掘り出す。(P.92)
4. 揺らぎを許す
好きなことややりたいことが頻繁に変わっても「前に言っていたことと違うね」と責めず、「今のあなたがそう思うならそれでいい」と、変化のなかでの信念形成を肯定する。(P.92)

 そのために、「どうやって選んだの? ちょっと気になるな」「それってあなたにとってどんな意味があるの?」などと声をかけるといい。

 こうしたやりとりを通じて、子どもは少しずつ自分の信念を見つけ、育てていくことができるのだ。

 確かに、自分のやりたいことがしっかりわかっていて、その理由を言語化できていれば、あとはそれに向かって努力をすればいい。

 勉強する理由も、その進路を選ぶ理由も自分の中にある子どもは、放っておいても自分で学んでいくだろう。

 そしてそれは、親が決めて与えるものではなく、子ども自身が自分と向き合って見つけるものなのだ。

 ぜひ、子どもがいる方は問いかけてあげてほしい。まだ言語化できていないその子ならではの「信念」が見つかるかもしれないのだから。