経理情報やファイナンスに関心のある方なら、最近「FP&A」という言葉を専門誌やオンライン記事で目にされているかもしれません。昨年末に発売された、米国でバイブル的な解説書とされる『FP&Aのすべて』の日本語版も好評で、その広がりは明らかなものになっています。
しかし「FP&A」については、従来の経理や財務、ファイナンス(コーポレート・ファイナンス)といった部署・スキルと何が違うのか、具体的に何をするのか、イメージしづらいという声も多く聞かれます。『FP&Aのすべて』の監訳者である鷲巣大輔氏に、その正体を噛み砕いて解説してもらいました。[構成/ダイヤモンド社・横田大樹]

Photo: Adobe StockPhoto: Adobe Stock

――鷲巣さん、『FP&Aのすべて』の監訳では本当にお世話になりました。私もその制作を通じてFP&Aの全体観や奥深さにふれることができ、これは絶対に日本企業にも定着したほうがよい知識体系だと、改めて確信することができました。

 しかしまだ日本では、経理や財務に携わっていても、FP&Aという言葉を聞いたことがないという人が多くいます。今回はそうした方のために、FP&Aを基本的なところから解説していただきたいと思います。

 いいですね。ぜひやりましょう!

――ありがとうございます。それでは、順番に質問をさせていただきますね。まずは大前提として、FP&Aとは何かをできるだけ簡単に教えていただけますか。

【Q1】「FP&A」とは何か?

 一言でいえば、「ファイナンスの知識・見識に基づき、意思決定権者を支えるビジネスパートナー」です。

 欧米のグローバル企業では昔から、「経理(Accounting)」「財務(Treasury)」と並んで、「FP&A(Financial Planning & Analysis)」という部署や職種が当たり前に存在しています。

「会社のお金に関連する仕事」として多くの人がまずイメージする「経理(Accounting)」は、過去に起きたことを正確に記録・報告することが主なミッションです。「財務(Treasury)」は、ビジネスに必要な資金を集め、投資家との関係を構築する役割を担います。

 これらに対し、FP&Aは「未来」に焦点を当てる仕事です。「過去をどう説明するか」ではなく、「次に何をすべきか決める」という未来の設計図を描く機能といえます。

 別の言い方をすると、企業価値を最大化するという目的に向かって、社長や事業部長といったリーダーが「質の高い意思決定」を下せるようにプロセスを設計し、支援する存在です。単なる分析屋さんや評論家ではなく、意思決定プロセスそのものに責任を持つ「当事者」の一人と言えるでしょう。

――なるほど! よくコーポレート・ファイナンスの解説書には、「ファイナンスは未来、会計は過去」という説明がありますが、その「未来」というのはFP&Aが担うところが大きかったんですね。FP&Aとコーポレート・ファイナンスの違いについては、もう少し詳しく聞かせてもらえますか。

【Q2】ファイナンスとFP&Aはどう違うのか?

 コーポレート・ファイナンスも、経営学の一分野の「学問」としての側面と、企業内での「実務」としての側面があるのでわかりにくいですよね。

 そのうえで説明すると、コーポレート・ファイナンスが主に学問として「意思決定の判断軸や理論」を提供するのに対し、FP&Aは、それらの理論を組織の意思決定プロセスに落とし込み、使い続けるための実務である、という違いがあります。

 たとえば、ファイナンスの教科書には、投資判断の指標としてNPV(正味現在価値)やIRR(内部収益率)といった計算式が出てきます。理論上は「あるプロジェクトや投資案件のNPVがプラスなら投資する、マイナスならしない」というYesかNoの判断になります。しかしFP&Aの実務では、単に計算結果だけで機械的に判断を下すことはしません。

 FP&Aは、「どういう前提条件が揃えば勝てるのか」「誰がどの数字に責任(コミット)を持つのか」という、組織としての判断構造や実行プランを作り上げるためにファイナンス理論を使います。理論上の正しさだけでなく、組織が納得して動けるようにするための「実務的な翻訳」をおこなうのがFP&Aです。

――先ほど、FP&Aの担当は“意思決定プロセスそのものに責任を持つ「当事者」の一人”という説明がありましたが、腑に落ちました。コーポレート・ファイナンスの理論や手法を使って、会社組織を動かす神経のような役割を果たす存在になると、その機能は「FP&A的といえる」ってことですね。

 では、そのようにFP&Aが機能すると、会社にはどんな良いことがあるんですか!?

【Q3】FP&Aが機能してる組織の特徴とは?

 FP&Aが存在しない日本企業では、現場と経営、あるいは事業部門と管理部門の間に壁があるといわれることがよくあります。しかしこれは、「壁があるのではなく、共通言語がない」と表現したほうが正しいでしょう。共通言語がないため、経営者は感覚的な「ポエム(夢物語)」で語る一方、現場は「数字の帳尻合わせ」に終始してしまうことになりがちなのです。

 対して、FP&Aが機能している組織では「前提条件の共有」と「対話」が可能になります。

 FP&Aが機能している組織のイメージをうまく表現している文章を紹介しましょう。エール取締役の篠田真貴子さんは、かつてスイスの製薬会社ノバルティスファーマでも勤務されていて、そのときの経験を次のように記しています(2024年11月15日の篠田真貴子氏Facebookより、強調は筆者)。

【建設的な対話の素地を積み上げる仕組み】
 かつて外資系大企業にいた頃の上司に会った。私は事業部のJapanのファイナンス責任者で彼女はAsiaPacの責任者だった。ここでいう事業部のファイナンスとは最近日本でも少し知られるようになってきたFP&A (financial planning and analysis)を中心とする役割だ。

 当時を彼女と一緒に振り返って、経営から見た情報の集め方や意図が伝わりやすくなる仕組みがよくできていたことに気づいた。
プロダクトアウトな事業領域(製薬会社のつくった医療用栄養食)であることが前提なのだが、私たちファイナンスのラインはスイス本社直結。他の機能は日本の事業部長につながるラインだった。

 月次報告、四半期ごとの着地見込み、それぞれの報告フォーマットが財務だけでなく事業状況も共有できる構成になってた。月次、四半期とも、毎回Japanのような主要マーケットはCEO & CFOと直接ミーティングしてフォーマットに沿って報告し、議論していた。加えて、年1~2回、CEOたちが日本に来て、1日か2日がっつりディスカッションをしていた。

 これらとは別に、本社の経理がbalance sheet reviewといって対面で丸2日かけてBSを1行1行、なんなら伝票まで掘り下げながらこの1年の推移を勘定科目別に一緒に振り返るというのを年2回やっていた。

 CEOや本社スタッフは上記の統一フォーマットとこうしたミーティングで情報粒度を揃えて各国の情報を得ていた。私の立ち位置からすると、トップが知りたいこと、受け取れる情報粒度、判断基準に直接、そこそこの頻度で触れていたことになる。

 このような仕組みが機能していたことで、私は本社から事業全体やJapanがどう見えているか、ある程度類推することができた。おそらくCEOや本社スタッフも、Japanが見ている景色を分からないまでも「そこに自分たちに見えてない何かある」という前提で対応していた。

 要は、建設的な対話の素地が積み上げられていたんだと思う。属人的にではなく、仕組みで。

 このようにFP&Aがうまく機能すると、現場と経営、事業部門と管理部門が「自分たちには見えていない何かがある」という前提に立ち、お互いが理解できる共通言語(ファイナンス数値とロジック)を使って対話ができるようになります。これにより会議の結論が先送りされず、「この前提ならGO、崩れたら撤退」といった更新可能な判断を下せるようになります。

 篠田さんが以前CFOを務めていた株式会社ほぼ日には「夢に手足を。」という社是がありますが、まさにFP&Aは、戦略的な「夢」と現実的な「数字」の間にある空白を埋め、「夢に手足をつける(実現可能な仕組みにする)」役割を果たすのです。

――FP&Aのことがより本質的に理解できた気がします! 篠田さんの投稿はノバルティスファーマでの経験ということですが、他にFP&Aで有名な企業はあるのでしょうか?

【Q4】FP&Aで有名な企業は?

 ノバルティスファーマのようなグローバル企業であれば必ずFP&Aの部署が存在しているはずですが、代表例をあげるなら、P&G、ジョンソン・エンド・ジョンソン、コカ・コーラなども有名ですね。

 なかでも現在、「FP&Aの最先端」と言われるほど抜きん出ているのがMicrosoftです。Microsoftはずいぶん前から「モダンファイナンス」と称して、機械学習やテクノロジーを駆使してFP&Aに関連する事務作業を自動化してきました。

 さらに最近ではそれを「フロンティアファイナンス」と進化させ、AIを活用し、時には兆円規模の大きなリスクを管理し、リターンを最大化するための意思決定支援をおこなうようになりました。そして、そうした自社のFP&Aの仕組み自体をビジネスパッケージとして販売するほど、この領域で先行しています。

――「フロンティアファイナンス」とは、リスクを管理して切り拓く「FP&A」にぴったりの名称ですね。では、日本企業ではどうでしょう?

【Q5】すでにFP&Aを導入している日本企業は?

 近年、導入する企業は増えていますが、成功しているモデルとして私が挙げたいのは花王リクルートです。これらの企業は、FP&Aという名称が一般的になる前から、(たとえば「管理会計」という名称で)約30年にわたり同様の機能を組織に定着させ、現場からの信頼を積み重ねてきました。

 また最近、FP&Aを本格導入し始めて、着々と機能を実装している企業として知られるようになったのは、味の素、富士通、NECなどです。これらの企業を始め、多くの日本企業がFP&Aを導入展開していますが、たいていのケースにおいては組織的な信頼を得ていく過渡期にあるといえるかもしれません。重要なのは「FP&A」という部署名があるかどうかではなく、意思決定のプロセスにどこまで深く関与できているかという実態なので、その点には注意して今度の動きを見ていきたいですね。

――日本でも著名な企業がどんどん導入している段階ということですね。でも、これまではなぜ、日本企業にFP&Aが普及しなかったんでしょうか?

【Q6】なぜ、FP&Aは日本で普及しなかった?

 それはおもしろい視点ですね。従来の日本企業では、「経理」「財務」のほかに「経営企画」などの部署が存在しても、数字をベースに「どの前提条件を引き受けて勝負するか」を設計し、継続的に対話する機能が組織的に欠けていました。

 ファイナンスの裏付けがない「経営者のカンや好み」で決まることもあれば、「現場からのボトムアップ」による判断を鵜呑みにすることも多かったはずです。また逆に、リスク排除を最優先した「過度な数値管理」に振れることもありました。それでもやれてきていた、というのが実態でしょう。

 しかし近年、投資家からの企業価値向上への圧力が強まったことで、この空白を埋めるFP&Aの必要性が急速に認識され始めています。

――証券市場やコーポレート・ガバナンスの改革の影響が、日本にFP&Aを普及させるかもしれないってことですね。そういえば、CFOの存在感が増してきたのも同じ理由からでした。

 まさにそのとおりです。FP&AはCFOにとって必須の知識でありスキルですから、CFOというポジションが定着すれば、FP&Aの普及は時間の問題だったともいえます。

――CFOを目指す人は多いでしょうから、FP&Aへの注目度は今後ますます上がりそうですね。では、まずFP&A人材になろうとしたときに、どのようなスキルを身につければよいのでしょうか?

【Q7】「FP&A人材」に必要なスキルとは?

 FP&Aにとって、会計知識やExcelスキルはあくまで「アプリケーション(道具)」であり、最も重要なのはその土台となる「思考OS」です。特に重要なスキルは以下の3つでしょう。

 ◇前提を言語化する力(決まっていない未来について仮説を立てる力)
 ◇不確実性を「幅」で捉える力(一点の正解ではなく、リスクの振れ幅を理解する力)
 ◇組織の意思決定構造を読む力(誰が何にコミットすれば物事が動くかを見抜く力)

 経理(Accounting)出身者がFP&A担当になるケースも多いですが、「正しさ」や「リスク排除」を重視する経理の思考法が、かえってFP&Aの邪魔になることもあります。P&Gの採用では、会計知識よりも戦略的思考やリーダーシップ(TCL:Thinking, Communication, Leadership)を身につけられるか、といったポテンシャルが重視されていました。

――隣接しているようでも、「経理(Accounting)」とFP&Aでは求められる思考OSが全然違うというのはおもしろいですね。
 最後に、最近進化が激しいAIが、FP&Aに与える影響について教えてください。AIが進化してなくなる可能性のある仕事なんでしょうか?

【Q8】AIの進化はFP&Aにどんな影響を与える?

 FP&Aの「作業(タスク)」はなくなりますが、「役割」はなくなりません。

 予算作成、予実のギャップ分析、フォーキャスト(予測)といった計算作業は、Microsoftの事例のようにAIやテクノロジーに代替されていくでしょう。人間が予測モデルをいじる必要はなくなります。しかし、だからこそ「AIが出したアウトプットをもとに、どう意思決定するか」という人間同士の対話や、議論のアジェンダ設計、AIへの問いかけ(プロンプト)の重要性が増します。

 こうした「企業内のコミュニケーション」と密接に関連した、数字ベースの意思決定こそがFP&Aの本質です。これからのFP&Aはその純度を上げるように、計算機を叩く仕事から、経営層と対話し、意思決定の質を高めるための「問い」を設計する仕事へと進化していくはずです。AI時代こそ、FP&A人材の真価が問われるようになると言えるでしょう。

――FP&Aだけでなく、企業そのものへの理解が深まるレクチャーでした。ありがとうございました!