毎年平均100名近い海外機関投資家と面談しているニコン現CFOの徳成旨亮氏によると、海外機関投資家との面談で、頻繁に「君たち(日本経済・日本企業・日本人)には『アニマルスピリッツ』はないのか?」と問い質されてきた、という。
海外投資家は、日本の社会や企業経営を、血気が衰え、数値的期待値を最重視しリスクに怯えている状態にあると見ている。結果、日経平均は1989年の最高値を未だ更新できておらず、水準を切り上げ続けている欧米株と比べて魅力がないと言われても仕方がない状況だ。
この現状を打破するにはどうしたらいいか? 徳成氏は、「CFO思考」が「鍵」になるという
朝倉祐介氏(アニマルスピリッツ代表パートナー)や堀内勉氏(元森ビルCFO)が絶賛する6/7発売の新刊『CFO思考』では、日本経済・日本企業・日本人が「血気と活力」を取り戻し、着実に成長への道に回帰する秘策が述べられている。本書から、一部を特別に公開する。

日本の財務担当役員が安易に「CFO」を名乗ると起こる「悲劇」とはPhoto by Adobe Stock

米国でCFOといえば「経営スリートップ」の一員

 米国で生まれたCFOは、「Cスイート」と呼ばれる経営体制のなかのひとつの役職です。「Cスイート」体制とは、CEO(最高経営責任者)、COO(最高執行責任者)およびCFO(最高財務責任者)の3名が経営の意思決定を行う経営スタイルです。

 スイート(Suite)はホテルの「スイートルーム」のスイートで、「一式の、ひとつながりの」という意味です。複数の部屋がつながった客室をスイートルームと呼ぶように、少数の経営陣が一体となり、Cクラス経営者がつながって行う経営スタイルを「Cスイート」と呼びます。

 米国で発展し、欧州やアジア企業などに広がったこの「Cスイート」型経営体制は、少人数でスピーディーに経営の意思決定を行うことを重視する経営スタイルです。そこでは、CFOは会社の共同経営意思決定者としての役割を担っています

 一方、日本の経営スタイルは、社長のもとに多くの担当役員が並ぶ「文鎮型」とも呼べる執行体制です(図表1)。すなわち、経営の機能が細分化され、数多くの役員が意思決定に関与し、スピードよりもコンセンサスを重んじる「多数合議型経営体制」が、日本企業では多く見られます。この経営体制のもとでは、「経理・財務担当役員」が、経営企画担当役員や場合によってはIR担当役員と別個に存在しています。

日本の財務担当役員が安易に「CFO」を名乗ると起こる「悲劇」とは図表1 日本企業の「CFO」と欧米流の「CFO」は別物

 この「経理・財務担当役員」が欧米流の「CFO」を名乗るところから、混乱と不幸が始まるのです。その端的な例が、日本企業の「経理・財務担当役員」が「CFO」の名刺を持って海外投資家と面談した際に生じるすれ違いでしょう。

 名刺交換の際に、先方はその日本企業の役員を欧米流のCFOとして認識します。当然に質問の範囲は、経営戦略やM&A、気候変動問題への対応を含むサステナビリティ・ESGなどに及びます。

 また、その人物の資質を見極めようとする質問もなされます。第1回の「君のオフィスの設定温度は何度だ?」といった類の一見経理・財務や経営には無関係に思える質問を皮切りに、経営論を挑んでくる投資家もいます。

 この背景には、欧米ではCFOは3名しかいない企業の共同経営者であり、CFOは次期CEOの有力候補と考えられている、という事情があります。

 一方、こうした質問をされた日本企業の「CFO」は心の中でこう思うのです。

「経営戦略は、経営企画担当役員が社長と議論しているから、よく知らないんだよね」
「自分は、社長になる可能性なんてゼロだし、『経営哲学』的なことを質問されても困るんだよなぁ。数年後には、監査役になるか、子会社の社長になる予定だし」

 こうしたすれ違い(パーセプション・ギャップ)のことを、2019年にKPMGが行った先駆的なサーベイの報告書は、「日本のCFOが抱えるジレンマ」と呼んでいます。

 このサーベイでは、日本企業の「CFO」に責任を負う業務領域を質問しています(図表2)。その結果、「経営計画」「コーポレート戦略」に責任があると答えた「CFO」が全体の半分に満たないのは、日本企業の大半には「CFO」のほかに経営企画を担当する役員が存在するためです。

日本の財務担当役員が安易に「CFO」を名乗ると起こる「悲劇」とは図表2 日本のCFOの半分は経営計画に責任を持たない