日本経済復活およびビジネスパーソン個人の成長の秘訣を示した『CFO思考』が、スタートアップ業界やJTCと呼ばれる大企業のビジネスパーソンを中心に話題となっている。
本書の発刊を記念して、著者の徳成旨亮氏と、ベンチャー・キャピタル「アニマルスピリッツ」を立ち上げた元ミクシィCEOの朝倉祐介氏の対談が実現。「日本経済が復活するために足りないものとは?」「日本でスタートアップを盛り上げるにはどうすればいいか」「CFOに求められる資質とは」といったテーマについて、7回にわたってお届けする。(撮影/梅沢香織、構成/山本奈緒子、取材/上村晃大)
今、経理で働いている方に知ってほしいこと
徳成旨亮(以下、徳成) 朝倉さんは2018年に『ファイナンス思考 日本企業を蝕む病と、再生の戦略論』という本を書かれていますが、新たな本はお書きになられないんですか?
朝倉祐介(以下、朝倉) ええ、もうお腹いっぱいです。徳成さんは北村慶名義時代のものも含めて何冊も書かれていますが、通常の仕事もある中、あんな膨大な量の文章をどうやって書いていらっしゃるんですか? やはり本を1冊書くのって、間違いがあってはいけないから何度も見直しが必要ですし、かなりの時間と精神力を要するじゃないですか。
徳成 本当にそのとおりです。一種の苦行ですよね(笑)。それでも書くのは、やはり若いビジネスパーソンの皆さんに、個人としてのアニマルスピリッツを発揮していただきたいのと、キャリア形成のゴールとしてCFO(最高財務責任者)をイメージしてほしい、CFOは本当におもしろい仕事だ、ということを伝えたいという思いからです。
会社というのは一種のフィクションで、実態があるわけではありません。だけどそこには多くの人が集っていますよね。社員だったり、社員の家族だったり、取引先だったり。そしてその人たちの生活を支えるよりどころになっているのは事実。
その会社が少しでも良くなることは、関わっている人たちにとっても良いことだし、税金を払うわけだから社会にとっても良い。何より会社の業績が伸びて利益が上がり、企業価値が上がるのは、社会的にもそれなりに良いことをしているからなはずです。
そう考えていくと、CFOというのは、社員や取引先や株主など、いろんなステークホルダーをつなぐ結節点として、会社のことをいちばんわかっているという自負が持てる立場なんです。
そしてその前提として、数字に裏打ちされた説明ができる、というアカウンタビリティ(株主・投資家に対して、企業の状況や財務内容を報告する義務)がある。
CFOにとって会計や経理は基本なんです。だから、今、経理や財務など内部管理のお仕事をやっていらっしゃる方々に、今のお仕事の延長線上にCFOがいるんだよ、面白い世界が広がっているんだよということを伝えたくてこの本を書いたんです。
アメリカを含め世界には女性のCFOもけっこう多いんですよ。フォーチュン500企業のうち、63社のCFOが女性。私がCFOを務めた三菱UFJフィナンシャル・グループが買収した時点のインドネシアのダナモン銀行、タイのアユタヤ銀行も女性CFOでした。
朝倉 日本も少ないですけど、上場企業に女性CFOは数名いますよね。
徳成 そうなんです。経理など内部管理って女性の配属割合が高いと思うので、日本でももっと女性CFOが出てくる時代になると思っています。
同時に、『CFO思考』は、日本の大企業と言われる会社、最近の方々はJTC、“日本のトラディショナルな企業”と呼んでいるようですが、その古くて保守的と思われている日本の大企業の経理・財務担当役員やCFOの皆さんや、財務部長・経理部長の皆さんに向けても書いたんです。そうした方々には、単なる金庫番から脱して、時にCEOや他の役員に「リスクを取りましょうよ」と背中を押す、そういうエンジン的な役割を果たしてもらいたい、そう思っています。
だからこの本は、経理や財務などの内部管理をやっていらっしゃる方々と、今現役の部長・役員級の皆さん、2方向に宛てて書いた形になっています。どちらの方々にも読んでいただけるように、実際の経験からワクワクどきどきの“事件”や、少し経営や経済理論的なもの、さらに、CFOになるための道筋みたいなものを入れ込んだので、飽きずに読んでいただけるかな、とは思っています。
朝倉 この本を拝読していると、CFOの仕事ってもはや経営そのものだなと感じます。実際、欧米ではCFOには次のCEO候補になり得る人が多いということを書かれていましたが、CFOとCEOの実際の仕事として厳密な違いというと何があるとお考えでしょうか?
徳成 実を言うと、ないと言えばないのですよ。本の中でも、CFOからCEOになったソニーグループの会長CEOの吉田憲一郎さんを紹介していますが、日本では数少ないCFOからCEOへのルートは今後増えてくると思っています。
というのは、大きな会社はいくつもの異なる事業部門を持っていますから、経営者はそれらを束ねて、どう資本を割り振るか判断していかなければいけません。この事業はあまり調子が良くない、あるいは今はいいけど将来的に良くなくなるのが見えているから高く売れるときに売っておこうとか、そういった経営の根幹に関わるところでの判断が求められる。
つまり、ソニーグループのように会社が大きくなってくればくるほど、CEOは経営において必然的に投資家目線にならざるを得ないと思っています。
そうすると、投資家のことがよくわかっているCFOがCEOになるという道筋は、至極当然のものとなってくるんだと思います。
財務・経理担当役員から脱皮して、真のCFO、経営戦略もM&Aも資源配分も担当するCFOであれば、能力的にはCEOは充分務まるはずです。といいますか、務まるぐらいのCFOでないと、CFOを張っていられない時代が来ると思いますね。
CEOとCFOにひとつ違いがあるとすれば、CEOはビジョンの語り手であり、会社の顔というか、会社を代表するキャラクターである、という部分は厳然としてあります。CEOが目指すビジョンを実現するために、戦略や財務や内部管理一般を司るのがCFO。そうした役割の違いがあるとは思います。