量子コンピュータが私たちの未来を変える日は実はすぐそこまで来ている。
そんな今だからこそ、量子コンピュータについて知ることには大きな意味がある。単なる専門技術ではなく、これからの世界を理解し、自らの立場でどう関わるかを考えるための「新しい教養」だ。
『教養としての量子コンピュータ』では、最前線で研究を牽引する大阪大学教授の藤井啓祐氏が、物理学、情報科学、ビジネスの視点から、量子コンピュータをわかりやすく、かつ面白く伝えている。今回は藤井氏がストーリー形式で量子力学について執筆した特別原稿をお届けする。

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最先端技術に興味津々の中学生Q太郎くんは夏休みに、量子コンピュータの研究をする量子(りょうこ)先生に量子コンピュータについて教えてもらうことになりました。

しかし、そもそも量子コンピュータを理解するために必要な量子力学についてほとんど知らないことに気づきます。

ここでは、量子先生(以下、量子)とQ太郎くん(以下、Q太郎)との間の会話を通して量子力学についての理解を深めます。今回は「身の回りの力」について学んでいきましょう。

世界は4つの力でできている

Q太郎:先生、この前は身の回り物質と4つの元素について教えてもらったけど、これって量子の話につながるの?

量子:そうだったそうだった。量子の話だったよね!
さて、身の回りの物質をつくっている原子はどのようにできているか知ってるかな?

Q太郎:まかせてよ!
えーと、原子は、陽子と電子でできてるんだよね?
それで、陽子はプラスの電気を帯びた粒子で、その周りを回っているのがマイナスの電気を帯びた電子!
原子たちが結合するのは、何か引き合う力が物理法則にあるからだった気がする……。

量子:すごい! ほとんど正解だよ!
実はね、私たちが生きる自然界には4種類の力しかないんだよ。
1つは重力。
これが一番聞いたことがある力だね。私たちが地球に立っていられるのも重力のおかげなんだよ。

2つ目は、クーロン力っていうプラスとマイナスの電気が引き合う力。
重力は地球や惑星といった宇宙規模のすごく大きなスケールで作用しているから、分子をはじめとした私たちの身の回りの物質の性質のほとんどはクーロン力が決めているんだ。

その他は聞いてびっくりするかもしれないけど、「強い力」と「弱い力」なんだ。
強い力と弱い力は、陽子や中性子といったもっと細かく高エネルギーな素粒子の世界にしか現れないからあんまり馴染みがないかも。

なぜくっつかないのかな?

Q太郎:世界に4つの力しかないのも驚きだけど、強い力と弱い力ってなに!?
でも量子の話からずれちゃいそうだから今回は我慢しよう……。

量子先生、いまの説明だとよくわからなかったんだけど、酸素原子とか水素原子ってプラスもマイナスも同じ数だけあるから、電気的には中性だって授業で習った気がするよ?

そうしたら、なんで分子はクーロン力っていうプラスとマイナスが引き合う力で結合しているの?
そもそも、原子の中ではどうして陽子と電子がくっつかないの?
普通なら引き合ってくっついちゃう気がするんだけど……。

量子:すごく良い質問だね。話をちゃんと聞いてもらえて嬉しいよ。
いまQ太郎くんが言ったみたいな原子や分子の仕組みを完全に説明するためには「量子力学」という考え方が必要不可欠なんだ。
次回は量子力学のお話をしていこう!

Q太郎:やっと量子力学の話が出てきた! 楽しみだな~!

(本連載は『教養としての量子コンピュータ』の著者による特別原稿です。)