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将棋の世界は、AIの進化によって大きく様変わりした。50代になっても第一線で戦い続ける棋士・木村一基は、その登場によって「考えること」そのものが、かえって難しくなったと語る。影響は盤上の勝負にとどまらない。AIとどう距離を取り、自分自身の思考をいかに保ち続けるのか。木村の言葉から静かな葛藤が浮かび上がってくる。※本稿は、新聞記者の村瀬信也、棋士の木村一基『50代、それでも戦い続ける 将棋指しの衰勢と孤独と熱情と』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)一部を抜粋・編集したものです。
考え抜いた末の結論を
AIに聞くのがちょうどいい
50代になってもトップクラスの棋士たちと互角に戦うには、どうすればいいか。
木村は「いかにしっかり考えられるか」がカギの1つだと感じている。
「長考できる人。そして、結論が出るまで考える癖がついている人。こういう人は衰えが少ないのではないかと思っています」
羽生世代の中でも特に長考で知られるのが、タイトル獲得6期の実績を持つ郷田真隆だ。持ち時間6時間の順位戦で1手に3時間以上の長考を記録したこともある。一方で、持ち時間が短い早指しの棋戦の優勝経験も豊富で、2024年には早指しのNHK杯で準優勝を果たしている。公式戦で妥協することなく考えて得た読みの蓄積は、持ち時間の長短を問わず実戦で生きる――。郷田の活躍を見ると、そんなことを感じさせる。
平成初期の頃、20歳前後の羽生善治たちは「新時代の棋士」としてさまざまなメディアで取り上げられた。その際には、「パソコンを使って熱心に研究する」という側面がしばしば強調された。
だが、当時のパソコンの活用方法は棋譜の管理が主で、今のようにAIの指し手を参考にしていたわけではない。若手の頃の彼らの読む力を培ったのはそうしたツールではなく、納得がいくまで考えようとする地道な努力だった。







