『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第49回では、社員1人1人が持つ「都合のいい顔」と「都合の悪い顔」について解説する。
好調時は見えにくい社員の「ウラの顔」
社内に株式公開準備室を立ち上げて、具体的なIPO(新規上場)の準備をスタートした主人公・花岡拳。だが株式公開準備室の室長であり、創業期からのメンバーでもある大林隆二は、「IPOすれば新しい人材が増え、古参である自分たちの居場所がなくなる」と考え、消極的な態度をとり続ける。
一方で同じく古参メンバーでも、生産側のリーダーである片岩八重子(ヤエコ)は、ハナオカのIPOに積極的だ。
商品企画を担当する佐伯真理子は大林からIPO反対派に勧誘されるが、大林の熱弁を冷やかに聞き、適当にはぐらかす。そのことを察したヤエコは「商品企画は工場との協調が不可欠なのよ。つまりあんたは生産側の人間てことよ。いいわね」とクギを刺す。
そんな重い空気をひしひしと感じる花岡と、幼なじみで秋田の工場を担当する木村ノブオ(ノブ)。花岡はノブに、秋田弁まじりで、今の状況になって分かったことがあると本音を語る。
「大林は仕事はできる。部下の中心にも立てる。しかし、お山の大将でいるうちは機嫌はいいが、外れるとすぐスネる」
「要するに、社員というのは白黒両面の顔を持っているということだ」
経営者から見て、都合のいい「表の顔」と都合の悪い「ウラの顔」を持っているが、組織が成長している過程ではみんないい顔、表の顔しか目に入らない。
だが一定の規模まで組織が大きくなれば、社員同士が自己都合を強めていく。そこであらためて本性でもある「ウラの顔」が出てくるのだ。
組織が成長すると「人の顔」が変わる理由
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
花岡が語った「社員は両面の顔を持っている」という言葉は、ともすれば冷酷にも聞こえるが、実際には多くの成長企業で繰り返し語られてきた、経営者の実感と言える。
あるタイミングで社員が“悪人”に変わるわけではなく、組織が成長する過程で「評価のものさし」が変わるため、「表の顔」だけを見ているわけにいかなくなるということだろう。
ことスタートアップにおいては創業初期の組織における評価はきわめて属人的だ。
誰が一番会社のために身体を張ったか、誰が創業者の無茶な決断を信じて結果を出したかといったこと、そして何でもこなせるゼネラリストであるかといったことが求められる。しかし一定のステージになれば「役割」や「再現性」「説明可能性」も求められる。
花岡たちの会社にとっては、それがIPOだったというわけだ。企業によってはそれがIPOより前にやってくることもあるだろう。例えば祖業から重点領域をスライドする際もそうだろう。
今では誰もが知るSNSのFacebookも、ハーバード大学の学生向け交流サイトとしてスタートした頃は、ルームメイトを含めて極めて少人数でのプロダクト志向の組織だった。
しかし、上場しグローバル展開を果たした今では、(最近は問題も散見される)広告事業や規制との向き合い、モバイルシフト、グローバルでの経営など、組織に求められるものも変化した。このように、組織の拡大で社員1人1人に求められるものが変わるとき、「表の顔」ばかりが見えなくなるのではないだろうか。
花岡の会社が今にも二分するというさなか、ライバル・一ツ橋商事の井川泰子はその情報をつかみ、ヤエコにコンタクトを取り、さらに社内をかき乱そうとするのだった。
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク







