『D坂の殺人事件』で明智がどんな推理を見せるのか。谷崎潤一郎の『途上』と合わせて読んでみると、行われた犯罪の特徴がより理解できるだろう。
谷崎作品からインスパイアされて生まれた『パノラマ島綺譚』
その後、谷崎作品のなかでもとりわけ感銘を受けた『金色の死』からインスパイアされて、乱歩は『パノラマ島綺譚』という作品を生み出している。
谷崎の『金色の死』は主人公「私」が少年時代からの友人、岡村君について語る物語だ。
ともに成績優秀で裕福な家庭に育ち、将来有望だったが、岡村君の実家のほうが裕福さでは勝っていた。また岡村君自身は、太陽神アポロンのような容姿に恵まれて、器械体操に励んで肉体美を誇っていた点でも際立っていた。
「私」はどの科目も満遍なく好成績をキープし、順調に進学。在学中に作家デビューを果たす。一方の岡村君は歴史や数学を好まず、芸術や文学、語学だけを好んで学業に苦戦するようになる。一目見て美しさがわかる芸術を追求すべく、華美な衣装を身にまとい、化粧をして、異彩を放つようになる。
やがて好調だったはずの「私」は創作活動に行き詰まる。一方の岡村君は学業からフェイドアウトするも、ついに莫大な資産を意のままにできるようになり、自分だけの理想郷を建築し始める……。
己の芸術で世に認められたいという「私」と、孤高に偉大なる芸術家を目指した「岡村君」の生き方の対比が絶妙で、二人の行く末がどうなるのかと、ページをめくる手が止まらなかった。
この『金色の死』を読んで乱歩がうなったのは、エドガー・アラン・ポーの『アルンハイムの地所』の世界観を、谷崎がうまく自分のものにしているからだ。『アルンハイムの地所』では、先祖から莫大な遺産を引き継いだエリソンが理想の人口庭園を造るというものだ。
谷崎はここから着想を得て、岡村君の異様な理想郷を『金色の死』で描いている。『アルンハイムの地所』はとことん自然美を追求したが、『金色の死』での岡村君は人口庭園のなかで、人間の肉体美をふんだんに表現。谷崎ワールドを炸裂させている。







