◆「話が通じない部下」が一瞬で変わる…疲れない上司の“すごい共感”
部下が動かない、Z世代との距離感がつかめない……そんな悩みを解決するのが、ソフトバンクで「汐留の母」と呼ばれた澤田清恵著『伝え方ひとつで部下が動き出す 上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)だ。生身のリーダーに求められる最強の武器は生成AIには代替できない「コミュ力(共感力)」。単なる同情ではなく、相手の視点を論理的に理解する「認知的共感」の技術を体系化した、悩める上司たちの「読むサプリ」だ。呼吸を合わせる基本から、自身の無意識を言語化する応用、さらには「飲み会の失敗事例」や「エース部下の退職」といった実例に基づく「しくじり」分析まで網羅。表面的なテクニックではなく、心・技・体を整え、信頼で組織を動かすための実践的ノウハウが詰まった決定版!
※本稿は、『伝え方ひとつで部下が動き出す 上司の「コミュ力」大全』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
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本質的な共感の技術
部下を育成し、チームのパフォーマンスを最大化させる役割を担うマネジャーにとって、「共感力」は欠かせないスキルです。しかし、現場では「部下の言い分に共感しすぎて、業務に支障が出た」「話を聞くだけで疲れ果ててしまう」といった悩みも少なくありません。
リーダーが疲弊せず、かつ部下の心に深く届くコミュニケーションを実現するには、どのような「心構え」が必要なのでしょうか。心理療法のエピソードを交えながら、本質的な共感の技術について解説します。
「すべてを受け止める」とは「すべてを肯定する」ことではない
共感力の核となるのは、まず「相手の話をすべて受け止める覚悟」を持つことです。ここで重要なのは、「受け止める」ことと「肯定する」ことを明確に区別するという点です。
相手の言葉をすべて肯定し、言い分を丸呑みしようとすると、上司の側が「共感疲れ」を起こしたり、相手の負の感情に巻き込まれる「共感爆弾」の直撃を受けたりしてしまいます。私たちは他人同士ですから、価値観が違うのは当然です。親兄弟であっても、すべてを理解し肯定するのは不可能です。
真の共感とは、相手の言動に対して「良い・悪い」という評価をいったん脇に置き、「この人は今、こう考えているのだな」と、その人の現状をありのままに認める姿勢を指します。
伝説の精神科医、ミルトン・エリクソンの教え
この「まずは受け止める」ことの力を象徴する、有名なエピソードがあります。著名な心理学者であり精神科医でもあったミルトン・エリクソンのもとに、ある日「私はイエス・キリストの子どもなんです」と訴える重度の妄想を抱えた患者が訪れました。
普通であれば「それはあり得ない」「妄望ですよ」と否定し、現実を教え込もうとしてしまうでしょう。しかし、エリクソンはにこやかにこう答えたのです。
「そうなんですね。キリストのお子さんということは、大工のお仕事も得意なんですよね? 実は病院の書棚が壊れているので、修理していただけますか?」
聖書には、イエスの育ての親であるヨセフは大工であったと記されています。エリクソンは、相手が信じている「現実」を否定せずにそのまま受け止め、その世界観の中で協力を求めたのです。患者は見事に書棚を直し、それをきっかけに症状も回復へと向かいました。
エリクソンは患者を「肯定」したわけではなく、ただ相手の主観的な現実を「受け止めた」のです。その姿勢が、相手に深い安心感と変化のきっかけを与えました。



