まずは、金銭的な問題だ。広告収入の減少で番組予算が縮小されたことで、かつて隆盛を極めたドラマ制作部門にも影響が出ているという。
「フジテレビの全盛期といえば、社会現象と呼ばれるほどのドラマ作品を連発していたのが印象的です。しかし、現在は広告収入の減少で制作費が捻出できずに、他局の半分の予算で作っているドラマもあります。予算がなければ大々的な外でのロケは行えないので、スタジオ内でセットを組んで、なるべくスタジオだけで完結できるようなシーンを増やしています」(テレビ局関係者)
また、フジテレビの顔ともいえる月9枠も、厳しい状況が続いているようだ。
「かつては花形だった月曜の夜9時に放送される“月9”にも、今は予算をかけられない。さすがに主演として出演したい俳優は見つかりますが、主演以下の3番手や4番手のキャストはギャラが低いことからなかなか決まらず、困っているといった話も現場からはよく聞きます」(フジテレビ関係者)
また、フジの黄金世代を支えたバラエティー番組にも制作費縮小の余波が押し寄せている。
「番組MCなどは別ですが、ゴールデン帯のバラエティー番組に通常のタレントをゲスト出演させたとしても、1本につき3万円から5万円程度です。何時間も収録をこなしてこの金額はつらいものがあります。このギャラを所属している芸能事務所と折半するので、ネームバリューがそこまで高くない普通の芸能人は、テレビ出演のギャラだけでやっていけないと思います」(前出・テレビ局関係者)
さらにこの春に始まる新番組では、制作体制において“異常事態”が起こっていた。
「この4月から、『メイプル超合金』のカズレーザーさんがMCを務める2時間生放送のバラエティー番組がレギュラーとして始まります。ただ、これもかなりの低予算で作られています。
通常、1番組には3つくらいの制作会社が合同で作ることが多いのですが、この新番組は1社しかついていません。これは“異常事態”と言えますし、現場のスタッフが足りないと局内で心配されています。たしかに、生放送であれば編集する必要がありませんから、編集にかかるスタッフはいらないし、お金もかかりません。とはいえ、毎週2時間の生放送を少ないスタッフでやりくりするのは現場への負担が大きすぎます」(制作会社関係者)
毎朝平日に放送されている『サン!シャイン』もこの春で放送終了が報じられているが、これも予算改革の1つだそう。
「『サン!シャイン』が終わるため、前枠の『めざましテレビ』と後枠の『ノンストップ』の放送時間がその分伸びる予定なのですが、これも予算削減対策のひとつです。3番組を2番組にすることで、コストを削減しています。
個別の番組が増えれば増えるほど、出演者のギャラやスタッフ費用、スタジオセットなどいろいろなお金がかかりますからね。1番組の放送時間を長くしたほうが経済的なんです。しかし、1番組がなくなれば外部スタッフの働き口もなくなるということ。ずっとフジテレビの情報番組を支えてきたベテランスタッフの働き口が減り、不満の声も聞こえてきます」(フジテレビ関係者)
低予算での番組作りは現場にシワ寄せがくる。フジテレビのコンテンツ力の低下は、FMHの事業拡大の大きな壁になるだろう。さらに、「制作力」と同等に重要である「人材」という点でもフジテレビは苦境に立たされている。なんでも、優秀な社員の離脱が相次いでいるというのだ。
ついに競合会社での副業を許可
タクシー&飲み会は基本禁止に
「フジテレビ問題が起こった2025年、若手社員のボーナスは大きく影響はなかった一方、ベテラン社員のボーナスは大幅に減ったそうです。有名なドラマプロデューサーですら、半分以下になったそうで“新入社員くらいの額だ”とぼやいていました。その影響もあったのか、2025年末には稼ぎ頭のドラマ部門やバラエティー部門で辞める局員が続出しました。ほかにも、水面下で転職活動をしている社員は少なくありません」)(前出・テレビ局関係者)
転職先はやはり映像関連の業界が多いというが、フジとしても優秀な社員の流出を防ぐために対策を打ったと、この関係者が続ける。
「最近、フジテレビ社員の転職が相次いでいるため、辞めさせないために競業でも副業をOKとする方針を出したそうです。具体的にはネットフリックスなどのプロデューサーや監督などの仕事を相手から打診されても、フジの仕事と並行していいということになったそうです。競合会社での副業もOKにするなんて驚きましたが、それほど人材流出が深刻なのでしょう」(同)
フジテレビ問題で設置された第三者委員会では、局員とタレントとの懇親会の存在が明るみになったことも世間からの批判を受けた一因となった。元テレビ朝日で、現在はテレビプロデューサーの鎮目博道さんは、こうしたフジテレビとタレントとの距離感が最大の問題だったと語る。
「かつてのフジテレビはずっと視聴率のトップランナーで、企画内容よりも、有名タレントに頼っていた部分が強かった。もちろん面白い企画も大切にしていたと思いますが、他局よりもフジテレビに優先的に出てもらうために、有力タレントのご機嫌を取り、視聴率に繋がっていた時代が長く続いたため、それが正しいことだと考えていたのかもしれません。そういったスタンスが、中居さんの問題が起こってしまった一因となったと推測されます」
しかし今では、タレントとの飲み会は厳しく管理されているそう。
「昔はタクシー移動が当たり前でしたが、現在は経費削減の観点から基本禁止。1年前に不適切な飲み会の問題も浮上したことで、今はそういったタレントとの会はおろか、社内での懇親会もかなり減ったそう。飲み会を行うにしても、会社側に事前に申請しなくてはならないそうです」(前出・テレビ局関係者)
しかし、制作会社関係者のひとりは、一部のバラエティー番組では、いまだにかつての名残りが残っていると証言する。
「他局では1時間くらいで終わるような会議なのに、4~5時間かかることも多い。とりあえず集まってから、“いま何か面白いこと考えて”といったことを無茶ぶりのような形で急に求められます。しかも、局員によっては、上から目線で圧をかけてくることもあります。そういう人たちは過去、フジのバラエティーがイケイケだった黄金時代を経験しているみたいで、いまだにその時の体育会的なノリを踏襲している人はいます。正直、時代と合ってないと感じます」
いまだに新旧のテレビマンの価値観が衝突する過渡期にあるようだ。フジテレビ問題から1年。こういった証言から分かるように、改革はまだ道半ばに思える。
「脱・バラエティー」への脱皮
IP戦略が拓く復活への道筋
ただ、新旧の価値観が激突する現場の制作体制にも、少しずつ変化が見えているという。
「今、フジテレビは生まれ変わろうとしています。というのも、外部の制作会社などに“世界で通用する番組”や“配信でヒットしそうな番組”だったり、ゲーム化などのマルチ展開まで出来る企画を募集しているんです。ただ、キャスティングのこともいまだに募集内容の時点で言及しているので、完全に生まれ変わったわけではないようですが、若手を中心に頑張っているみたいです。そういった新しい風が入っているため、かつての方法でやってきた“バブル世代”は会社に残りづらくなり、退職する社員も増えたと聞いています」(鎮目さん)
現場の疲弊というリスクを抱えつつも、新リーダー・清水社長の下で「ビジネスライクなコンテンツ制作集団」として生まれ変わろうとしている。今後、「IP創出の具体的なロードマップ」が示されるのであれば、現在の株価は「復活への仕込み時」とも捉えられる。
「番組を作る際の予算が全体的に減っているのは確かですが、力を入れている作品にはお金をかけています。例えば、2025年10月クールに放送された三谷幸喜さん脚本のドラマ『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』は、国内よりも海外で評価された。これは局内で成功作だとされています。
清水社長の方針はIPビジネスの強化。『もしもこの世が~』のように、地上波で放送しているドラマ作品は海外で配信されるとお金になるので、国内では視聴率が低くても、海外で結果を出せば社内で評価される土壌ができてきています」(前出・フジテレビ関係者)
番組の作り方も変わり、局員の新陳代謝も活性化すれば、おのずと社風も変わっていく可能性は大いにある。
「清水社長は港元社長のようにバラエティー出身ではなく、アニメやコンテンツビジネス出身の方です。つまり、ビジネスになるかどうかで企画を考える社長なので、かつてのようにタレントとの関係を築くことで番組を作っていた人たちからすれば、水が合わない。そういう人は会社から離れていき、若い世代がチャレンジングな企画を作ることで、フジテレビ全体の新陳代謝は少しずつ進んでいると思います。ただ、まだフジテレビが何をしようとしているのかが見えてこないため、外部スタッフからすれば、フジとしっかり二人三脚でやっていけるかどうかは様子を見ている印象です」(鎮目さん)
どうしても不透明感が漂う今後のフジテレビを支える存在にならなくてはならないメディア・コンテンツ事業にも光明はあると、鎮目さんが続ける。
「東宝がパートナー企業なのは大きいです。映画を制作した際の展開は非常に有利ですし、FODと連動させる動きも可能です。宝塚とも関係が深いわけですから、いろいろなエンタメを取り入れてテレビ以外で稼ぐことができる企業だと思います。
1年前の問題で膿を出したと考えて、かつてのやり方を捨て、若い世代を中心に新しいビジネスに注力していけば、オールドメディアと言われるテレビ業界からいち早く抜け出せる可能性があります。決して楽観的な状況ではありませんが、逆に今がチャンスと捉えられるかもしれません」
「現場」であるフジテレビの徹底したコスト意識と、若手主導のIP戦略は、果たして具体的な収益として結実するのか。2026年5月に予定されているさらなるアップデートで、成長のロードマップがより具体化され、コンテンツメーカーとしての復活の兆しが見られれば、FMHは「オールドメディア」の皮を脱ぎ捨てた新たな成長銘柄として、投資家から再評価される日もそう遠くないだろう。
本記事は2026年2月24日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。







