「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。新年度を迎えるこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。
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一つのモノサシで人生を測る危険性
――仕事で成功している人であっても、家庭やプライベートでトラブルを抱えているケースを耳にします。仕事もプライベートもバランスよくうまくいくためには、どういうことに気を付けたらいいでしょうか。
山口周氏(以下、山口):能力が非常に高くて仕事では活躍しているけれど家族関係がボロボロという人もいれば、逆に家族関係はすごくいいけれど全然成長できていなくて財務的に厳しいという人もいます。どちらも極端なんですよね。
まず、人生を一つのモノサシだけで測ろうとしないことが大事です。たとえば年収だけで人の上下を決めるとか、逆に「お金なんかじゃない、家族との関係だけが大事だ」というのも極端です。
経営の世界には「バランス・スコア・カード」という考え方があります。これはハーバード・ビジネス・スクールのロバート・カプランと経営コンサルタントのデビッド・ノートンが提唱した概念です。
バランス・スコア・カードは、単に財務的成果のみに焦点を当てるのではなく、組織の戦略をより中長期的で多角的な視点から捉え、評価することを目的にしています。短期的に財務を良くしようと思ったら、人を減らして、研究開発への投資をやめて、品質を下げればいい。すぐに数字は良くなります。でも、未来を犠牲にしているわけです。
バランス・スコア・カードでは、「財務」「内部プロセス」「顧客」「学習と成長」という4つの視点で見ます。これら4つの要素はバラバラに存在しているのではなく、有機的な関係にあります。たとえば品質を犠牲にしてコストを下げれば、短期的には財務指標は改善しますが、顧客の評価は低下し、中長期的には売り上げも利益も低下することになるでしょう。また、内部プロセスの効率や品質が高まれば、顧客の評価へとつながり、最終的には財務指標の改善にもつながります。
人生のバランス・スコア・カードを作る
――個人の人生に当てはめると、どうなりますか?
山口:例をあげると「財務」は経済状況の健全性、「顧客」は仕事・プライベートそれぞれの人間関係の質。「内部プロセス」は、全般的な時間管理やメンタル・フィジカルの健全度、「学習と成長」は、仕事での新しい経験のほか、読書や旅行や対話を通じて得た学習の量・質、トレーニングや学校に参加して得た資格や学位ということになります。
最終的には、個人個人が「自分にとって大事なもの」をきちんと棚卸して、それらの「大事なもの」についての関係性とトレードオフを整理したうえで、目標を決め定期的に見直していくことが大事です。
コンサルティング会社にいた頃、尊敬していたパートナーの方がいました。その方がよく飲みに連れて行ってくれたんですが、バーでパソコンをパチパチ打っているんですよ。「何をしているんですか?」と聞いたら、家族、自分の成長、会社への貢献、地域コミュニティでの活動など、自分にとって重要なものをいくつか並べた表を作っていて、今年の目標と現状を月に一回くらい棚卸ししているんです。
「ここは結構できているけど、こっちは手薄になっているからやらなきゃ」と、お酒を飲みながらチェックしている。これを見たときに、「バランス・スコア・カードだな」と思いました。
タイパだけをあげても幸せになれない
――とても良さそうです。まずは「自分にとっての大事なもの」を棚卸しして整理することですね。
山口:そうです。バランス・スコア・カードは、運用の前段階である「指標の設定」、すなわち「自分なりの成功のモノサシは何か?」と考えることが最も重要です。
これをやらないと、他人のモノサシで生きるようになってしまうおそれがあります。
実際、ほとんどの人は深く考えることなく「世間で成功とされる目標」や「他人から羨ましがられる目標」を無批判に設定して時間配分を最適化し、タイパ向上に血道を上げてしまうんですよ。それは支配された状態です。
自分の人生の良し悪しを測る自分なりのモノサシを決めて、それを定期的に見直してみることが非常に重要なんじゃないかと思います。
『人生の経営戦略』の「バランス・スコア・カード」の項目を参考にしてみてください。
(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)





