また記憶の分け方の1つとして、今さっきの記憶を意味する「近時記憶」とずっと昔の記憶を意味する「遠隔記憶」があります。

 アルツハイマー病等で問題となるのは、エピソード記憶が障害を受けること。そして昔のことは覚えているのに、今さっきのことを忘れてしまう近時記憶の低下です。つまりよくいわれるように、認知症の人は古いことは覚えていても新しく経験したことが思い出せません。また、やらなくてはいけない予定が覚えられないことも生活のうえで大きな問題です。

 つまりアルツハイマー病予防の記憶トレーニングは、「エピソード記憶」「近時記憶」の2つを克服すればよいわけです。

「印象付ける」「紐づける」…
記憶に残りやすい「インプット」の工夫

 記憶の3段階は「記銘」「保持」「再生」です。

「記銘」は覚えるべきこと(情報)をインプットすることです。「保持」は頭の中に情報をキープしておくことです。「再生」は必要に応じてキープされた情報を呼び起こすことをいいます。

 アルツハイマー病等になってしまえば、この3つの能力のどれもが障害されます。そこでどうすればよいかというところが問題です。

 私自身の経験では、多少とも良いのは「記銘」、すなわちインプットへの工夫です。何気なくやってしまうとそのことをなかなか思い出せませんが、何かに印象づけて覚えたり、紐づけて覚えたりすると記憶に残りやすいものです。ここに注目していえば、指差し点検とか声に出して確認することが有効だといえるでしょう。

 ありふれた方法だとスルーせずに、ここは大事な場面だという時には実践することをおすすめします。

 もう1つ推奨するのはメモです。メモすることが習慣になっていない人は意識的にメモを取るようにしましょう。この際のコツは、ポイントを3つ書くことです。

 たとえば「上野」1つだけではなんのことかわかりません。しかし「上野、水戸行き、展覧会」と書いてあれば、あとから見た時になんのことかピンときます。3つが難しいという人は、最低でも2つ書いておきましょう。

 さらに、手帳を見返す習慣をつけると良いのです。先に述べたように、アルツハイマー病などでは、今日は何があるという予定を覚え、しかるべきタイミングで思い出す「展望記憶」が悪くなるわけです。

 そこで1日に3回も4回も手帳を見ることによって、消えてしまいそうになる記憶の呼び起こしに努めるというわけです。

 ちなみにデイサービスなどでは、記憶のトレーニングとして回想法(昔の経験や思い出を語り合う心理療法の一種)が有名ですが、回想法は決してエピソード記憶や展望記憶を良くするものではありません。

 回想法は認知症になっても残っている遠隔記憶(覚えている期間が長い記憶)を呼び起こすことによって自信を持ったり、他者と楽しく過ごしたりすることができるように促す方法。上手くすれば新しく覚える効果も期待できます。