そろそろ、夏期休暇の予定を立てる時期だろう。年末年始(2012~13年)の海外旅行客は6年ぶりに3000万人を突破したというのだから、この夏も海外旅行組は多いはず。
長時間の飛行中、機内環境は健康リスクが一杯である。何といっても、機内の気圧は富士山5合目並みの低酸素状態で乾燥も厳しい。呼吸器疾患持ちは低酸素症から失神発作を起こしやすい。また、狭心症や不整脈、心筋梗塞の既往持ちは酸素の需要が増し、発作を起こす危険性がある。まして、アルコールの過飲がプラスされれば推して知るべし、である。「お客様のなかにお医者様はいらっしゃいますか?」という有名? な台詞──ドクターコールは、決してドラマの話ではないのだ。
5月末に英国の一流医学誌「NEJM」に飛行中旅客機内での医学的緊急事例をレビューした結果が掲載された。米ピッツバーグ大学の研究者らが医療通信センターの記録を調べたもの。08年1月~10年10月の医学的な緊急事態は1万1920例、604飛行に1件の割合で発生していることになる。
報告によると緊急事態に陥った際、48.1%が乗り合わせた医師による助けを得て、20.1%は看護師による処置を受けている。このほか、救急隊員などの医療関係者の助けを合計すると、全体で75%が何らかの医療的な助けを得られた。ちなみに、7.3%は緊急着陸などフライト変更を余儀なくされている。
疾患の内訳は、失神37.4%、呼吸器症状12.1%、吐き気や嘔吐9.5%などだった。フライト後に追跡できた1万0914人のうち、4分の1は病院へ搬送されている。最終的に脳卒中の疑いなどで8.6%が入院、0.3%が死亡した。
国内では、複数のデータを総合するとドクターコールへの医師の援助申し出率は7割ほど。ただ、機内では可能な処置も限られる。世話にならないに越したことはない。長時間飛行時は山岳の砂漠地帯に滞在しているつもりで、小まめに水分を摂り、体温を調節すること。時折、体を動かすことも忘れずに。結局、それにつきる。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)