東京・上野にある国立科学博物館で2025年10月21日~11月30日まで開催され、大盛況で閉幕した企画展「量子の世紀」。量子力学の理論や歴史が紹介されているだけでなく、量子力学と格闘してきた科学者たちの軌跡までもがわかる本展がどう企画されたのか、監修者の河野洋人氏に話を伺った。(ダイヤモンド社書籍編集局)

大好評で閉幕した国立科学博物館の企画展「量子の世紀」。面白い展示が生まれた背景があまりにも深すぎた!

――大好評で閉幕した企画展「量子の世紀」の内容についてお話を聞かせてください。
今回の展示は2部構成になっていましたが、なぜこのような構成にされたんでしょうか?

大好評で閉幕した国立科学博物館の企画展「量子の世紀」。面白い展示が生まれた背景があまりにも深すぎた!河野洋人(こうの・ひろと)
国立科学博物館 理学研究部理化学グループ研究員

河野洋人氏(以下、河野):実は、正直に言うと、当初は量子力学の全体像を説明できる展示にしようと、3部構成とか4部構成にしたかったんです。量子力学を説明しようと思ったら、いくらスペースがあっても足りません。

ただ空間的な制約がありますので、ちょっと大胆ではあったんですが、100年の流れを1930年代から1940年初頭ぐらいまででバシッと切って、2部構成にしたんです。

量子力学が出来上がってくる歴史的な過程とそのエッセンスをまず先にお見せしてから、量子力学の広がりを第2部で紹介する、という感じですね。

――そうだったんですね……! ただ、2部に凝縮してまとめてくださったおかげで私みたいな文系人間でも最後までわかりやすかったです!
わかりやすいポイントというと、今回の企画展はハンズオン(注:手で触れられる展示)が多かったように思います。展示についてどんな工夫をされたのでしょうか?

河野:やっぱり難解な理論を展示しようという試みだったので、多方面から楽しめるように、と意識していました。

量子力学の理論は、難解で非直観的だということもあって、パネルでの説明だけだと、わかったという気持ちになれないんですよ。

そこで、資料や「言葉」の展示で科学者の「息遣い」を伝えて量子力学を感じてもらったり、ハンズオンの展示で「わけわかんないけどやってみようかな」と思ってもらったりと、いろいろな角度で楽しんでもらえたらいいなと思いながら、展示を組み立てていきました。

博物館の展示で大切な「物を展示する」というポイントでは、原論文や科学者がやりとりした手紙など、その時代の「本物」の資料を展示することを意識しました。

量子力学の理論には必ずしも興味がなくても、「歴史のお宝を見に行こうかな」といった気持ちでも足を運んでもらいたかった。少しでも多くの方に、これなら自分でも楽しめるかも、という要素を見つけてもらいたかったんです。

大好評で閉幕した国立科学博物館の企画展「量子の世紀」。面白い展示が生まれた背景があまりにも深すぎた!当時の科学者が研究の成功を記念して書いた絵巻(理化学研究所所蔵)

ただ一方で、物理的な概念のほうをどう伝えるかは、本当に悩みました。

科学館のハンズオンって、基本的には「体験して楽しい」というのがオーソドックスなんです。

でも、今回の展示で用意したようなハンズオンって、やること自体が楽しいハンズオンでは決してありませんでした。

「これってなんでこうなるの?」「何を伝えたいんだろう?」みたいに考えてもらうものばっかりだったんです。

やって終わりではなくて、実際に体験することで、もう一度解説を読んでみよう、と思ってもらえたら嬉しいなと思っていました。

――展示を拝見していて「あれ、量子力学ってなんだ……?」とぐるぐるしてきたときに、触ってわかる展示があったことで「やっぱりわかるかも!」という気持ちになれました! どのハンズオンも人気で、猫ちゃんの写真を撮る展示(シュレーディンガーの猫のハンズオン)では皆さん写真を楽しそうに撮られていましたよね。

大好評で閉幕した国立科学博物館の企画展「量子の世紀」。面白い展示が生まれた背景があまりにも深すぎた!多くの人が猫を観測しているのがわかります!

河野:ありがとうございます。

実は開催初期は誰も写真を撮ってなかったんですよ。

高校生の集団がいたときには、スタッフと、「ちょっとみんな写真撮ってみない?」とこちらから声をかけていました(笑)

ずっと「なぜ写真を撮りにくいんだろう」「どうしたら写真を撮ってもらえるんだろう」とずっと考えていました。

お客さんにヒアリングもしたんですよ!

だんだん、たとえば「おしゃれに仕立ててもらったがゆえに、肝心の『観測してみよう』の文字が小さすぎるんじゃないか」といった課題が見えてきたんです。

そこからチームのみんなで相談しながら、ちょっとデザイン性を損なってはしまうんですが、大きな文字の案内を貼りました。

すると写真を撮ってくれるお客さんが増えたんです。

――企画展が始まってからも工夫をし続けていたんですね。

河野:そうなんです。ほぼ毎日のように改善をしていました。情けないながら、やはりやってみないとわからないことがたくさんあって。

「ここは説明が足りないかもしれないな」「わかりにくいかもしれないな」と開幕1週間は現場に通い詰めてお客さんの様子を観察していました。

例えば、二重スリットによる光の干渉縞を観察できるようにした展示の様子を見ていると、「見える!」という人と「見えない……」という人がいたんです。

よく聞くと、そもそも何が「干渉縞」なのか、ということが伝わっていなかったことに気づきました。そこで、現象の写真を拡大印刷して、「干渉縞」の位置に矢印をつけて、貼り出したんです。

そうすると「これが見えてるってことか!」と楽しんでもらえるようになりました。

そうやって少しずつ展示を進化させていったんです。

――お話を伺っていると、企画のスタートから展示内容など河野さんが考えられた部分がかなり多いように思ったのですが、河野さんは監修者としてどこまで関わられていたんでしょうか…?

河野:展示内容は私が考えて、チームで相談しながら、具体的な形にしていきました。

展示パネルの文章は、私が書き下ろしたものです。

なので、実は監修者って言われるとあんまりしっくり来なくて。

展示の基本を作って、文章を書いて……どちらかというと、制作者の気持ちかもしれません。

日本物理学会(共催)の物理学者の方々にもアドバイスをいただきながら、よい企画展にしたい気持ちで頑張りました。

できるだけ「本物」の資料を用意することにこだわったり、科学者たちの「知的格闘」の面白さが伝わるよう工夫したり、自分のできることをやったつもりです。

例えば、湯川秀樹の資料を単に見せるだけでなく、量子力学に臨んだ若き日の湯川の苦悩や熱意がなるべく伝わる展示にしたり、実はすごいのに光が当たっていない人物を少しでも取り上げたり、普段の展示ではできないことにチャレンジしました。

――展示パネルの文章も河野さんが書かれていたんですね……!
展示パネルのQRコードから飛ぶとさらに詳しいお話が載っていたのですが、もしかしてそれも河野さんが……?

河野:気づいてもらえて嬉しいです!

それもギリギリまで頑張って書き上げました。

「もっと知りたい」と思ってくれた人に応えたいと思ったんです。

せっかく興味を持ってくれたのに、それ以上知る手段がなくなってしまったら悲しいですし。

それに「量子力学にはもっとこんな面白さがありますよ」って伝えたい気持ちもありました。

今回の企画展では展示に「量子力学への入り口」をたくさん作ったつもりです。

お客さんが、量子力学を自分なりに楽しむ「きっかけ」を見つけるお手伝いができていたら、嬉しいです。

――とても素晴らしいお話をありがとうございました。また次回の企画展も楽しみにしております!

※企画展「量子の世紀」は終了してしまいましたが、国立科学博物館では企画展終了後に会場の様子をVRで楽しめるよう、近日中にHPで公開します。
ぜひご覧ください!
https://www.kahaku.go.jp/VR/exhi-ueno.php#btn_field

河野洋人(こうの・ひろと)
国立科学博物館 理学研究部理化学グループ研究員
専門は科学史。日本における物性物理学の形成過程を中心に、近現代の物理科学史を研究している。