疲労感、疲弊感、閉塞感が充満する理由

 疲弊感が漂うのはどの業界も同じでしょう。私は現在、企業のカンパニー・ドクターを務めていますが、日本の大企業の上級・中級管理者たちに会っていると、彼らからよく出てくる言葉が3つあります。それは疲労感、疲弊感、閉塞感です。

 私はこれを冗談で「平成の3H」と呼んでいるんですけど、彼らは驚くほど疲れていますね。大企業の管理職ですから一定水準以上の待遇は受けているはずなのに。

山本 お金では満たされないということですね。

 そうです。こういう言葉が出てくるというのはひとつの現象で、現象の前には必ず原因があるんです。ではその原因は何だと突きつめて考えると、つまり彼らの上司が短期的に業績を上げることばかり言っているんだと思うんですよね。「売ってこい」「稼いでこい」「新規顧客を開拓してこい」とは言うけれど、将来の夢は語らない。みんなで頑張っていこうとは言わない。“トンネルの先の光”を示していない。だから疲れるんです。

医療現場での仕事はまさに苛酷の一言。だからこそ、「私たちは何のためにこの仕事をするのか」「社会にとってどのようなバリューを生み出すべきか」という問いかけが大切。

山本 医療・ヘルスケア業界も同じです。医療・ヘルスケア業界が、なぜ社会にとって必要なのか。医療・ヘルスケア業界としてどのようなバリューを社会に対して生み出さなければいけないのかということを忘れている、あるいは考えてこなかった人が多すぎるんです。

 もう一度、私たち業界の価値を考え直さなければいけません。技術的にも社会的にも、今そういう時期にさしかかっていると思います。

 そこで必要とされるのはやはり理念です。ジョンソン・エンド・ジョンソンでは企業理念(クレード)をワーキングツールとして使っています。経営や業務判断しなければいけないときに、これは理念に合っているのか、合っていないかとする。東証一部上場企業なら大半は企業理念を社長室に掲げているでしょう。しかしワーキングツールとして使っている会社は5%程度じゃないでしょうか。

山本 そんなに少ないんですか。

 そんな程度です。医療業界が果たすべきミッションは何か、ミッションを達成するためにはどういう業界であるべきなのかというビジョンをDNAのレベルまで落とし込めたら、業界は必ず変わります。

***

 仕事を通して、自分たちがどう社会に貢献していくのか。それは医療・ヘルスケア業界のみならず、どの業界でも同じ共通の課題です。社会的認識と業界内や会社内との意識格差を埋めるため、お2人の挑戦は続きます。

 次回は、7月22日(月)に更新を予定しています。


【お知らせ】

半世紀以上にわたる新将命氏のビジネス経験から導き出されたビジネスの「原理原則」が、オリジナル教材『経営・リーダーシップ実学』としてセットになりました。
経営者や管理職、次世代のリーダーが身につけるべき経営・リーダーシップの「原理原則」を、DVDと書籍から学ぶことができるセットです。こちらもぜひご覧ください。

“伝説の外資トップ”新将命のロングセラー、好評発売中!

『働き方の教科書』『リーダーの教科書』『経営の教科書』は、外資企業トップを歴任してきた新将命氏が、半世紀近くに及ぶ自らのビジネス人生の集大成としてつづった三部作です。
器の大きなリーダーになりたい方、企業経営のしかたに悩んでいる方に是非お読みいただきたい内容です。

働き方の教科書
人としての器を広げ、仕事でのスキルを磨きたいすべての方に。
ご購入はこちら⇒[Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス

リーダーの教科書
部下を持つとはどういうことか?人を育てるうえでの心得とは?ビジネスリーダーの要諦をまとめた52のレッスン。
ご購入はこちら⇒[Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス

経営の教科書
勝ち残る企業にするために、経営者として押さえておかなければならない30のポイントをまとめた経営実論。
ご購入はこちら⇒[Amazon.co.jp] [紀伊國屋BookWeb] [楽天ブックス