今回から、社会保障のうち医療に目を転じたい。医療に関して、今通常国会において最大の争点の1つとなるのが、後期高齢者医療制度の廃止法案である。もっとも、廃止の根拠となっている差別という批判は妥当性を欠いている。同制度は高齢者をとりたてて差別しておらず、本当に「差別」されているのはむしろ現役世代なのである。
後期高齢者医療制度は、原則75歳以上の高齢者を対象とする、自民・公明党政権下の2008年に4月にスタートした新しい制度であるにもかかわらず、「社会保障・税一体改革素案」には、「具体的内容について、関係者の理解を得た上で、(中略)制度廃止に向けた見直しのための法案を提出する」と明記されている。これは、09年衆議院選挙の民主党マニフェストを受けたものである。民主党マニフェストでは、後期高齢者医療制度は高齢者を年齢で差別する制度であり、政権交代実現後は廃止するとうたわれていた。
もっとも、廃止の根拠となっている差別という批判は妥当性を欠いている。同制度は高齢者をとりたてて差別していないからだ。「差別」されているのはむしろ現役世代である。同制度の財源は、現役世代からの所得移転に大きく依存しており、高齢化が一段と進むなか、そうした構造が持続可能なのかということこそが、最大の焦点となるべきなのである。そのことを示すため、まずは、複雑な健康保険財政の構造の解明からはじめたい。
複雑な健康保険財政を
公的年金を参考に読み解く
わが国の健康保険財政の枠組みは、第1回で述べた公的年金制度のアナロジーとして捉えるとつかみやすい。公的年金制度が厚生、共済、国民各制度の分立を基本とし、基礎年金勘定という共通の財布にお金を出し合っていたように、健康保険制度も制度の分立を基本とし、高齢者医療制度という共通の財布に対し、各制度はお金を出すよう義務付けられているのである。加えて、そこに公費という名の税および赤字国債が投入される。もっとも、健康保険制度は、年金よりさらに複雑であり、財源に占める公費の投入ウェイトも大きい。