海外での出産を経験した日本人夫婦が「まさか、翌日に退院だと言われるなんて思ってもいなかった」と戸惑うケースもよく耳にします。

 日本人が欧米人と比べて痛みに弱い原因も、先ほどお話ししたS型遺伝子が関係していると考えられています。なぜなら、セロトニンには痛みを和らげる働き(疼痛緩和)もあるからです(加えて、不安感を抑制する働きもあります)。

 つまり、日本人はS型遺伝子を持つ割合が非常に高いため、このセロトニンによる抑制が働きにくく、結果として痛みや不安を感じやすい傾向にあるわけです。

日本人の持つルーツが
「痛み」や「不安」に深く関係

「どうして日本人だけがこんな体質なんだ!」

 こうツッコみたくなる人も、多いと思います。

 では、なぜ私たち日本人は、欧米人よりもS型遺伝子を多く持つことになったのでしょうか。

 その答えは、はるか遠い祖先から続く、世界でも類を見ない「島国」というユニークな地政学的環境と、私たち独自の歴史に関係していると考えられています。

 欧米、特にアングロサクソン系の人々は、基本的に狩猟民族の末裔です。彼らは広大な大陸を移動し、獲物を追い、時には自らの権利を主張するために争うことも厭わない、強い闘争本能を持っていました。

 想像してみてください。厳しい自然環境の中で生き抜く上で、野獣や敵と戦った後にぐったりと疲れ果てていては、次の危険に対応できませんよね。また、傷を負って「痛い!」と立ち止まっていては、すぐに敵に命を奪われてしまうでしょう。

 こうした極限の環境が、「疲れ」や「痛み」に鈍感な遺伝的傾向を形作ったと考えられています。つまり、アングロサクソン系におけるS型遺伝子は生存に不利なため淘汰され、疲れや痛みを抑制する脳のシステムが発達したわけです。

 それに対して、日本人のルーツは少し異なります。

 縄文時代には狩猟民族でしたが、弥生時代に入ると本格的に農耕生活が主流になりました。狭い国土で集落を作り、互いに協力しながら暮らす。そんな生活の中で育まれたのが「和を重んじる」という日本独特の気質です。