行政調査、書類、コンプラ対応…増え続ける
「大人の仕事」が保育士の手をふさぐ

 例えば去年、教員による子どもの盗撮・わいせつ事件をきっかけに、全国の保育施設に「撮影機器の管理に関する調査」が行われました。園内にどんなカメラがあるのか、それは何の目的で使っているのか、どのような管理体制になっているのか、誰がチェックしているのか――そうした項目をひとつずつ書き出し、報告する必要がありました。

 社会全体の安心と安全のためには、こうした取り組みは必要です。意味がないとは言えません。ただ、こうした調査やアンケートは内容を変えながら、コンプライアンス強化の名のもとに、何度も何度も現場に降りてきます。

 一般企業でもチェックリストや報告書が増える一方で、顧客と向き合う時間が削られているという状況、あると思います。保育園の主役は「子ども」です。大人が起こした愚かな事件のせいで余計な業務が増えるほど、子どものための時間が削られています。

 保育も、世の中に数多くある事業の1つです。その運営費の多くは税金が支えています。だからこそ、限られた時間や費用をどうすれば子どものために向けられるのか。現場は常に悩みながら、やりくりをしているのが実情です。

待機児童ほぼゼロで「園が余る」時代に
過熱する“保護者向けサービス”

 数年前、「保育園落ちた 日本死ね」という匿名ブログをきっかけに、「保育園に入れない」は大きな社会問題になりました。待機児童問題を解消するため、保育園は社会福祉法人だけでなく株式会社などにも門戸が開かれ、国と自治体は大規模な施設整備を進めました。

 その結果、2010年ごろに全国で約2万カ所だった保育施設は、20年代には4万カ所近くに倍増しました。25年4月時点の全国待機児童数は2254人と、ピーク時の10分の1以下まで減っています。

 かつての保育園は、「子どもを受け入れれば自然と経営が成り立つ」時代でした。ところが今は、保護者に「選ばれなければ」経営が成り立たなくなりました。この変化は、ある弊害をもたらしています。

 園児を獲得するための競争が激しくなると、写真の大量配信や、派手な行事や演出、ていねい過ぎる連絡帳など、保護者向けのサービスが過熱しやすくなります。子ども目線というより、契約してくれる大人の満足を意識した取り組みが増えやすい、ということです。

 しかし、保護者向けのサービスや行事や演出の準備に時間をかけるほど、裏返しで必ず、子どもに向ける時間は減ってしまいます。保育園が「選ばれる側」になったという構造上、結果としてそのような方向に流れやすいのです。