◆データ分析と現場の決定的な違いを突きつける…江戸川乱歩の猟奇的マーケティング論
眠れなくなるほど面白い文豪42人の生き様。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫、与謝野晶子……誰もが知る文豪だけど、その作品を教科書以外で読んだことがある人は、少ないかもしれない。そんな人に向けて、文芸評論に人生を捧げてきた「文豪」のスペシャリストが贈る、文芸作品が一気に身近になる書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)。ヘンで、エロくて、ダメだから、奥深い“やたら刺激的な文豪たちの知られざる生き様”を大公開!
イラスト:塩井浩平
29歳でデビュー
芽が出たのは40歳ごろの遅咲き作家
漆黒の密室で蠢く倒錯の世界
『人間椅子』(『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫に収録)には、椅子の内部に大きな空洞をつくり、椅子のなかで暮らすようになった職人による懺悔が綴られています。
その職人がつくった椅子はホテルの一室に置かれることになり、入れ替わり立ち替わり、さまざまな人物が、まさか椅子のなかに人が暮らしているとは知らずに座ります。椅子に座る人々の体の感触を、その職人は事細かに手紙に綴っているというゾッとする展開なのです。
肉感が語る歪な人間観察
「彼等は声と、鼻息と、跫音と、衣ずれの音と、そして、幾つかの丸々とした弾力に富む肉塊に過ぎないのでございます。私は、彼等の一人一人を、その容貌の代りに、肌触りによって識別することが出来ます。あるものは、デブデブと肥え太って、腐った肴の様な感触を与えます。それとは正反対に、あるものは、コチコチに痩せひからびて、骸骨のような感じが致します」
『人間椅子』(『江戸川乱歩傑作選』新潮文庫に収録)
和から洋へ、近代化の隙間をつく恐怖
『人間椅子』は大正14(1925)年に大衆向け雑誌『苦楽』に発表され、好評を博しました。「椅子のなかで人が暮らす」というトリッキーな設定ではありますが、畳の上に正座をするのが当たり前だった時代から、西洋式の椅子を見かけるようになったからこそ、読者に受け入れられたという面もあるでしょう。

