
ヘブンが刺しに来た
「ほんにたわいもない、素晴らしな毎日だっただない」とフミ(池脇千鶴)がトキとヘブンの人生を肯定する。
笑いながら、泣いてしまうトキ。そして、また笑う。泣きと笑いが波のように交互にくる。
そしたら、ブーンっと羽音をさせて蚊が飛んできて、トキの手に止まった。
生まれ変わったら蚊になって、好きな人を刺すと言っていたヘブン。この蚊はきっとヘブン。
『ばけばけ』のタイトルも回収されたと言っていいだろう。
トキはまた笑う。
「痒い」
それから3日3晩、トキはヘブンとのたわいもない思い出を語り続けた。
「KWAIDAN」はトキとヘブンの死後、ベストセラーになった。
トキの怪談好きはヘブンの人生をおとしめたのではなく、彼の人生を押し上げたのだ。
そして、出来上がった『思ひ出の記』。
ここまでで10分。あと5分でどこにいくのか、何があるのか――と思ったら、「じゃあいくよ」と子どもがまっしろな表紙の本をめくる。
ハンバート ハンバートの主題歌の前奏がはじまる。そこで再び涙腺崩壊した視聴者も少なくないだろう。
ページをめくるように思い出の写真の数々が。
シジミ汁もトーストも目玉焼きの写真も。ブードゥー人形も。一輪挿しも。
タイトルバックは絵本の絵と文字のページのような構想だったようだ。
いいエンディングのあと、
「これが、私、トキの話でございます」
場面は、ロウソク1本のうす暗い部屋。トキとヘブンが向き合っている。
「ママサン スバラシ」
「パパさん お散歩いきましょうか」
立ち上がったトキは、1回戻ってきて火を吹き消して。
タッタタッタとスキップしながらふたりは去っていく。
真っ暗になった画面に「ばけばけ」。
きれいにまとまった最終回。これは朝ドラ最終回史上、いい最終回の上位にランクイン(筆者個人のベストテン)。
最後の最後までトキが後悔し、でも『思ひ出の記』を書くことで、夫を失くした人生に火をともすことができた。物語ることが人生を明るくすることもある。
ふじきみつ彦の作風はオチに向かって書いていないというが、すべてがオチに向かっていたようなエンディングであった。積み重ねてきたたわいのない日々がすてきなアルバムのような一冊に。きっと誰もの人生が振り返ったら、いい人生になる。
もしそれがほかの人の視点から見たら違うものであったとしても構わない。その人だけの物語があっていい。







