今は大丈夫でも、3年後には会社が破綻してしまうかもしれない。黄色い表紙の帝国「イエローページ」は、足元の改善には熱心でも、外から迫る変革の波を見逃した。どうすれば予測できない変化にも対応できるのでしょうか?
楽天グループ代表取締役会長兼社長・三木谷浩史氏をはじめ、Google元会長やZoomの創設者も絶賛する世界的ベストセラー『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』をもとに解説します。

【ワースト1】「今うまくいっている」ときダメなリーダーがやってしまうこととは?Photo: Adobe Stock

「小さな改善」で満足してはいけない

かつて数十億ドルの企業価値があったR・H・ドネリー(RHD)のケースを考えてみよう。

米国のほとんどの家庭がRHDの名を聞いたことがなくても、少し前まで、同社の製品はほぼすべての家庭にあり、頻繁に使われていた。

「イエローページ」というその名にふさわしい黄色い表紙の分厚い本を覚えているだろうか。

イエローページは、消費者が求めているサービスを地元で見つけるのに役立つと同時に、サービス提供者が自社の宣伝をすることを可能にした職業別電話帳だ。

その名は消費者だけでなく投資家にも広く知られており、50万を超える広告主が、イエローページの掲載枠に年間3500ドルを支払っていた。

比較的最近の2006年、RHDは投資家向けのプレゼンテーションで、米国での発行点数がわずか3年で200点から600点超へと着実に増加したことを誇らしげに発表した。

総発行部数は驚異的な8000万部に到達していた。2006年3月にRHDのCEOが投資家向けに行ったプレゼンテーションのタイトルが「継続的成功への盤石な態勢(Positioned for Continued Success)」だったのも当然だろう。

職業別電話帳のイエローページは、長年にわたって多くの小さな漸進的変化を遂げてきた。

たとえば、新しいカテゴリーが追加されてきた(「風水」や「ボトックス」、「カビとり」など)。

RHDがイノベーションコンペを催すことに意味はあっただろうか。

コンペの実施と評価に費用も時間もかかるなら、意味はなかっただろう。実際、2006年の100ページを超える投資家向けプレゼン資料には、イノベーションに関する言及がほとんどない。

「製品イノベーション」に関する1枚のスライドには、「白色ページ」や「小さな背表紙広告」などの新しい特徴がいかにも重要そうに記載されている。

だが、RHDの幹部は、イエローページのちっぽけな拡張を多数盛り込んだ長ったらしいプレゼン資料をつくるよりも、外に目を向けて、近づいてくる嵐に気づくべきだった。

そうすれば、2006年までに、オンライン検索を活用したまったく新しいビジネスモデルがすでに台頭し始め、RHDの利益を根こそぎ奪おうとしていることを認識できただろう。

ベンチャーマインドセットに導かれたリスク低減エンジニアのように行動していれば、真っ先にそのリスクに対処していたはずだ。

それからわずか3年後の2009年5月、R・H・ドネリーは破綻した。

VCの思考法が無視されている場合、直球はすべて打ち返せてもカーブ球は見逃してしまうリスクを常にはらんでいる。

RHDの意思決定者は、従来の漸進的変化には精通していたが、津波のように襲ってきたデジタルディスラプションの波は完全に見逃していた。

漸進的イノベーションと破壊的イノベーションには異なるアプローチが必要であり、その両方に目を向けておかなければならない。

多すぎる小さなアイデアや漸進的イノベーション、多すぎる船頭、多すぎる官僚的階層で、案件ファネルを詰まらせてはいけない。

イノベーションに取り組むときは、必ず的を絞る習慣をつけよう。

(本記事は『1兆ドル思考 世界一流の成功をもたらす9原則』から一部を抜粋・編集しています)