現金1億円と不動産1億円、相続税でここまで差がつく本当のワケ
本連載は、相続に関する法律や税金の基本から、相続争いの裁判例、税務調査で見られるポイントを学ぶものです。著者は相続専門税理士の橘慶太氏で、相談実績は5000人超。遺言書、相続税・贈与税、不動産、税務調査、各種手続といった観点から相続の現実を伝えています。2024年から始まった「贈与税の新ルール」等、相続の最新トレンドを著書『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』から一部抜粋し、お届けします。
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現金1億円と不動産1億円、相続税でここまで差がつく理由
本日は「相続と不動産」についてお話をします。年末年始、相続について家族で話し合った方も多いかと思います。ぜひ参考にしてください。
相続税対策として不動産が有効だと言われるのには、はっきりした理由があります。ポイントは、不動産そのものが特別に優遇されているというより、相続税を計算するときの「評価のされ方」に特徴があることです。
相続税は、亡くなった人が持っていた財産を、亡くなった日時点の時価で評価して計算します。預金であれば、その日の残高を見れば金額はすぐにわかりますし、上場株式もその時点の価格をもとに比較的わかりやすく評価できます。ところが、不動産はそう簡単ではありません。同じエリアにある土地でも、形や面積、接している道路、使われ方によって価値が変わるため、「その日にいくらだったのか」をぴたりと決めるのが難しいのです。
そこで相続税の世界では、不動産を評価するための一定のルールが設けられています。土地でよく使われるのが路線価方式で、道路ごとに定められた価格をもとに、その土地の相続税評価額を計算していきます。この方法は誰でも一定の基準で評価できるという意味ではとても便利ですが、実際の売買価格とぴったり一致するわけではありません。一般に路線価は実勢価格の8割程度が目安とされることが多く、現実に1億円で購入した土地であっても、相続税評価額としては8000万円前後になることがあります。
この時点で、すでに現金や預金より相続税の計算上は圧縮されているわけです。現金1億円をそのまま持っていれば、1億円として評価されますが、不動産に変えておけば、相続税上の評価額がそれより低くなる可能性がある。ここにまず、不動産が相続税対策として注目される大きな理由があります。
さらに、不動産は「どう使っているか」によって、評価額がもう1段下がることがあります。たとえば自分で住んでいる土地には別の特例の論点がありますが、賃貸アパートの敷地として使われている土地には、貸家建付地として評価減が認められるケースがあります。ざっくり言えば、他人に貸している土地は、自分が完全に自由に使える土地よりも利用に制約があるため、その分だけ評価額を下げてよい、という考え方です。
たとえば1億円で購入した土地があったとします。まず路線価ベースで8000万円程度に評価される。さらにそれがアパートの敷地として使われていれば、そこから一定割合の減額が入り、相続税の計算上は6000万円台まで下がることもあります。つまり、現実には1億円の価値を持つ不動産でも、相続税の計算ではそれよりかなり低い金額で扱われることがあるのです。
とくに、現金を多く持っている人にとっては、この差が大きく働きます。現金は額面どおりに評価されますが、不動産に組み替えることで、相続税上の評価額を圧縮できる可能性があるからです。資産を現金のまま持つのではなく、収益不動産に振り替えるわけです。
もっとも、ここには注意点もあります。賃貸用不動産だからといって、いつでも満額の評価減が使えるわけではありません。たとえば4室あるアパートのうち、相続時点で3室は入居中でも1室が空室だった場合、空室部分に対応する土地については減額が認められないことがあります。実務では、空室が一時的なものなのか、継続して募集していたのか、といった事情によって判断が分かれることもあり、税務署と納税者側で見解が対立する場面もあります。つまり、「賃貸にしておけば必ず大きく下がる」と単純に考えないほうがいいのです。
また、不動産価格そのものの動きにも目を向ける必要があります。よく「不動産価格が上がると相続税も高くなるのでは」と言われますが、たしかに評価額が上がれば税額も上がります。ただし、資産自体が値上がりしているのであれば、全体としてはプラスになることも多い。たとえば不動産が2000万円値上がりし、その結果として相続税が数百万円増えたとしても、手元に残る資産価値まで含めて見れば、損とは言い切れません。
本当に気をつけたいのは、相続が起きた時点では不動産価格が高く、その価格で相続税が決まったあとに、大きく値下がりしてしまうケースです。相続税は亡くなった時点の評価で確定するため、その後に市況が悪化しても税額は下がりません。そうなると、高い評価額に基づく税金だけが残り、資産価値のほうは目減りしてしまいます。相続対策として不動産を活用するなら、こうした価格変動リスクも含めて考える必要があります。
つまり、不動産が相続税対策に効くのは、「現金より有利だから」というより、「相続税の評価額が実勢価格より低く出やすく、さらに使い方によっては追加の評価減も受けられるから」です。ただし、その効果は物件の種類や使われ方、入居状況、市場環境によってかなり変わります。不動産はたしかに相続税対策として強力な選択肢ですが、万能ではありません。評価の仕組みを理解したうえで、自分の資産状況や相続のタイミング、不動産市況まで見ながら判断することが大切です。
(本原稿は『ぶっちゃけ相続【増補改訂版】』の一部抜粋・加筆を行ったものです)







