オープンAIとアンソロピックが学ぶ「集中」の価値EMIL LENDOF/WSJ, ISTOCK

 資本主義史上、最も巨額の資金が投じられている競争において数年前、ビジネスチャット「スラック」に投稿されたあるメッセージにより新たな戦いの火ぶたが切られた。

「自分がこつこつ作った新しいツールを見せたかった」。ボリス・チェルニーというエンジニアが2024年、アンソロピックの同僚に宛ててそう書いた。

 やがて社内の誰もが、チェルニー氏が開発した新しいツールを使うようになった。今では 「クロード・コード」 として広く知られるツールだ。チェルニー氏のツールはシリコンバレーを席巻し、ウォール街に衝撃を与え、アンソロピックの最も手ごわいライバルさえも慌てさせることに成功した。

 その過程で、このツールはビジネスの成功に関する本質的なものについても明らかにした。

 チェルニー氏が運命のメッセージの送信ボタンを押すはるか前、アンソロピックの創業者たちは、後に同社のあり方を決めることになる、常識では理解しがたい戦略を選択した。彼らは一般消費者よりむしろ、コーダーや企業向けの開発に徹底的に集中することにした。この決定のおかげで、アンソロピックのエンジニアは自社のアイデンティティーを極めて明確に理解している。チェルニー氏はユーザー向けのコーディングツールの開発を任された際、ユーザーが誰なのかをはっきり分かっていた。その結果できたのが、クロード・コードだった。

 顧客を絞ったおかげで、社内のサイドプロジェクトが同社のヒット商品になった。

「クロード・コード」を開発したボリス・チェルニー氏「クロード・コード」を開発したボリス・チェルニー氏
PHOTO: VICTOR LLORENTE FOR WSJ

 どんな事業においても集中は強みだ。しかし、無限の可能性があり、その成否が会社の存亡に関わるような事業において、集中は特に重要だ。

 さらに企業がほぼ何でも作れる場合、最も難しいのは「何を作らないか」を判断することだ。

 オープンAIは今、この教訓を身をもって学んでいる。 筆者の同僚の バーバー・ジン記者が報じた ように、同社の経営陣は事業の絞り込みを行い、業務効率化への需要に応じるべく 戦略の大転換 を大急ぎで打ち出している。