非の打ちどころがないロジックがあるのに、なぜかチームの熱量が上がらない。そんな「正論の壁」にぶつかっているリーダーは多いはずだ。サンダンス映画祭でグランプリを受賞した映画監督・長久允氏の著書『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』には、論理を超えて人を動かす言葉の作り方が記されていた。(取材・文/飯室佐世子)

脚本の教室Photo: Adobe Stock

「正論」は人を黙らせるが、
動かすことはできない

 私たちはいつから、これほどまでに正論を武器にするようになったのだろうか。

 巷には、相手を説得する話法・技法が数多く紹介され、かくゆう私も覚えたての技を会議の場面で決め込んだことがある。上手く使えていたかは、定かではないが。

 しかし、その結果はどうだろうか。

 クライアントから「ロジックはわかるけど、ワクワクしないね」と突き返されたり、チームメンバーが納得はしていてもどこか死んだような目で作業に当たっていたりすることはないだろうか。

 人は理屈で納得しても、感情が動かなければ動かない。正論は人を黙らせることはできても、躍動させることはできないのかもしれない。

映画監督が、あらすじの前に「詩」を書く理由

 映画監督の長久允氏は、このロジックの限界を鮮やかに突破する手法を持っている。それが、「ポエトリーリーディング(詩の朗読)脚本術」だ。

 映画を作る際、一般的にはあらすじである「プロット」をおこし、論理的な骨組みを作るそうだ。しかし、長久監督はそれをしないという。

 あらすじを考える前に、まず自分の内側にある衝動を、一切の理屈を抜きにして「詩」として書き出すのだという。

長久允氏(以下、長久):物語の構造を考える前に、自分が今何を叫びたいのか、何に怒っているのか。それをポエトリーとして書き殴るんです。そこにこそ、その作品にしか宿らない「熱」があるから。

 この手法は、ビジネスにおいても有効かもしれない。

 たとえば、新規事業のプレゼン。市場規模や競合優位性を語る前に、「このサービスで、日曜の夜に溜息をつく人を一人でも減らしたいんだ!」のような、理屈を超えたポエトリー(詩)が真ん中にあるだろうか。

ビジネスを動かすのは、語り手の「熱」だ

 多くのビジネスパーソンは、このポエトリーを恥ずかしがって隠してしまう。

「ビジネスに感情を持ち込むのはプロ失格だ」と思い込み、個人の熱量を冷徹な数字や用語で薄めてしまうのだ。

 だが、そうして薄められた言葉は、誰の心にも刺さらない「コモディティ化した正論」に成り下がる。

長久:恥を恐れずに自分の声を出す。そうすることで、結果として世界に通用してしまうものができるのだと思います。

 もちろん、ビジネスにおいてロジックは不可欠だ。それは、目的地へ安全にたどり着くための地図のようなもの。

 しかし、そもそも「そこへ行きたい!」とエンジンに火をつけるのは、地図ではなく、語り手の体温が乗った詩なのかもしれない。

 次に大切なプレゼンやミーティングがあるなら、一度100点の資料を閉じてみてほしい。そして、あなたが本当に伝えたいことを、格好つけず、誰の真似でもない、あなた自身の詩として書き出してみてはどうだろうか。

 綺麗な正論をうたうリーダーより、不器用でも「魂の叫び」を語るリーダーに、人はついていきたくなるものなのだから。

(本稿は、『あなたにしか作れないけれど、世界に通用してしまう 脚本の教室』の発売を記念したオリジナル記事です)