気づかないうちに、心が限界を迎えていた――そんな経験はないだろうか。仕事や人間関係に追われる日々のなかで、ある日突然、何もできなくなる。『人生は「気分」が10割』の著者、キム・ダスル氏の新刊『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した本稿では、ライターの柴田賢三氏に心を立て直すための意外なコツについてのエッセイをご寄稿いただいた。(企画:ダイヤモンド社書籍編集局)
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50代で突然のうつ状態
一時、会社や家庭、プライベートでの人間関係に悩んで精神的に追い込まれたことがある。五十代になったばかりの頃だ。
ひと通りの人生経験を積んできただけに、自分がうつのような状態に陥ったことを認めたくなかったのだろう。無理をして会社に出勤し続けていたら、ある朝どうしてもベッドから起き出せなくなった。
それどころか、部屋の明かりも目を刺す刺激に思え、起きているときはつけっぱなしだったテレビも見ることができない。スマホのLINEなどの着信音も怖くなり、新聞もネットニュースも受け付けなくなってしまった。
さすがにマズいと思い、会社に事情を伝えて、とりあえず有給をすべて消化することにした。
最初の1週間ほどは雨戸を閉め切った寝室で、ただただ横になるだけ。心配した妻が病院に連れて行こうとしたが、自分が診断を下されるのが怖くて拒否。強制的に通院させられるのを恐れて食事だけは無理やり食べていたが、それも苦痛だった。
まずは散歩から
「もう病院は強制しないから、今日だけは私の言うことを聞いて」
妻の強い誘いを断りきれず、2人で散歩に出た。外出したのは約2週間ぶり。ちょうど春先の季節で、近所の大きな公園の緑道を歩いていると、草木が芽吹いていることや花の香りが人を癒すということにはじめて気づいた。
そういえば、大学を卒業して社会に出てから、まともに散歩したことなどなかった。会社員時代には、仕事の一環と称して毎晩ギラギラのネオンの下で酒を浴びるように飲み、休みもとらずに働き続けた。
心が折れて妻と散歩に出かけて、人生ではじめて季節を感じ、風の心地よさを知ったような気がした。
その日から雨戸を開け、徐々に自分を取り戻すことができたが、しばらくテレビは見ることができなかった。光と音で、一方的に大量の情報を押し付けられることを許容できるようになるまでは、そこから数カ月が必要だった。
「うるさい場所」から離れてみる
“人生の指標”となる言葉の数々を収録している本、『人生は期待ゼロがうまくいく』の中で著者のキム・ダスル氏は「『うるさい場所』から離れてみる」ことを薦めている。
――『人生は期待ゼロがうまくいく』(p.65)
今、なにかに悩んでいる人は、とりあえず家を出て景色のいい場所で散歩してみてほしい。少しでも気持ちがラクになるはずだから。
(本記事は『人生は期待ゼロがうまくいく』の発売を記念した書下ろしエッセイです)
大学卒業後、複数の出版社や不動産会社での社員を経てフリーライターとして独立。週刊誌、月刊誌、WEBメディアなどで記者、編集者を経験した。事件、芸能、スポーツ、サブカルチャーまで幅広く取材に携わり、のちに新聞やテレビでも大きな話題になったスクープをモノにしたこともある。





