スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。

「これまでに存在しなかった市場」を開拓できるか?Photo: Adobe Stock

代替案のないアイデアを探せ

 クレイトン・クリステンセン氏の名著『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)の邦訳版を監修した玉田俊平太氏の著書によると、クリステンセン氏は「新規事業を考えるときには、無消費をターゲットにせよ」とよく口にするという。

「無消費」とは、潜在的なニーズや課題を抱えているにもかかわらず、顧客自身もその解決策を明確に認識しておらず、適切なサービスが提供されていない状態を指す。

 そのため、代替サービスが存在しない。

 市場に代替サービスが存在しないということは、前例もなければ、既存の競合もいないということだ。そうした領域を発見してPMF(Product Market Fit)を達成できれば、大きな成長を見込める。

Too Good To Go:
フードロス削減という「以前は存在しなかった市場」の開拓

「無消費」の典型例として、デンマーク発のフードロス削減プラットフォーム「Too Good To Go(トゥ・グッド・トゥ・ゴー)」が挙げられる。

 従来、レストランやベーカリー、スーパーマーケットなどの事業者は、売れ残った食品を廃棄するしか選択肢がなかった。

 一方で、消費者側には新鮮で安価な食品への潜在的なニーズが存在していた。

 さらに、環境意識の高まりとともに、フードロス削減への関心も増していた。しかし、この両者を効率的に結びつける仕組みは存在していなかった。

 Too Good To Goは2016年、この「無消費」領域に着目してサービスを開始した。アプリを通じて、事業者は売れ残り商品を「サプライズバッグ」として割引価格で販売し、消費者は最大で通常価格の3分の1程度でこれらの商品を購入できるプラットフォームを構築した。

三方よしのエコシステム

 このサービスの革新性は、単なるマッチングアプリにとどまらない点にある。

 事業者にとっては廃棄コストの削減と追加収益の確保、消費者にとっては安価で質の高い食品の入手、そして社会全体にとってはフードロス削減という環境貢献――まさに「三方よし」のエコシステムを実現した。

 特に注目すべきは、このプラットフォームが新たな消費行動を創出したことだ。

「いつ、何が手に入るかわからない」という要素がゲーム性を生み、ユーザーにとって新しい体験価値となった。従来の計画的な買い物とは異なる、発見や驚きを伴う消費スタイルを確立したのである。

 Too Good To Goは現在、ヨーロッパを中心に17カ国以上で展開し、8,000万人以上のユーザーを獲得している。同社が開拓した「フードロス削減×テクノロジー」という市場は、今や多くの企業が参入する成長分野となっている。

(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。