スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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先駆者が一夜にして
競争優位性を失ってしまう
前回の記事では、生成AI時代の「瞬間蒸発」現象について論じた。
ChatGPTやMicrosoft Copilotといった巨大テック企業のAI参入により、Jasper AIやGrammarlyのような先駆者が一夜にして競争優位性(市場)を失ってしまうという現象だ。
しかし、ビッグテックにも踏み込みを躊躇する「禁断の領域」が存在する。
その境界線を引くのが、独占禁止法という目に見えない壁である。
20億ドルの制裁金:
Appleの音楽配信支配への鉄槌
2024年、欧州委員会はAppleに対し、約20億ドルという史上最高額の制裁金を科すと発表した。
理由は、App Store上でSpotifyに不利な条件を課し、Apple Musicを優遇したことだ。
プラットフォームとサービスの融合による競争制限――まさに独占禁止法が最も警戒する行為である。
この判決は、音楽・音声配信領域におけるAppleの戦略に根本的な制約を課した。
iPhoneという支配的プラットフォームを持ちながら、Appleはそれを自社サービス拡大の武器として自由に使えない。
この制約により、独立系ストリーミングサービスの生存空間が法的に保障された。ポッドキャスト、オーディオブック、音声SNSといった新興領域でも、規制当局がプラットフォーム企業の自己優遇行為を厳しく監視している。
27億ドルの制裁:
Google Shoppingによる自己優遇
また、EUは2017年にGoogleに約27億ドル(24.2億ユーロ)の制裁金を科した。
その理由は、Googleが検索結果において自社のショッピング比較サービスを優遇し、競合他社を検索結果の平均4ページ目に追いやったことだ。
これにより、消費者の選択肢と市場のイノベーションが阻害されたとEUは判断したのだ。
検索中立性(Search Neutrality)が法的に要求される時代において、検索エンジン支配者は、自社サービス拡大の武器として、それを自由に使えなくなってきたのだ。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。




