しかし、私たちは玉手箱を開けた浦島太郎のように一気に年を取るわけではないので、本人には意外と自覚症状がありません。そのため、10年前の感覚で行動してしまい、失敗して命まで落とす人が少なくありません。法医学者のもとに運ばれてくる高齢者は、そうした人ばかりです。

 先日、80代のおじいちゃんが高所に上がって作業をしているときに転落して2時間宙吊り状態となり、亡くなってしまう事故が起こりました。周りは「危ないからやめておいたほうがいい」と止めたそうですが、昔からやっている仕事だから大丈夫、と聞かなかったようです。

 ところが、気持ちは若くても、肉体はそれについてこない。それで落下して亡くなってしまいました。自分の体力や能力を過信した結果が招いた悲劇でした。

 過信による突然死はほかにもあります。行き慣れている山での遭難や、慣れている農作業中の事故、毎年恒例のキノコ採りや山菜採りで行方不明になったりクマに襲われたりする事故も根っこは同じです。

 結局、加齢を意識せず、自分の体力や能力を過信すると突然死につながりやすくなるのです。

アメリカ人がヘルメットを
かぶらない理由とは

 そこでみなさんに意識してほしいのが、「アクティブセーフティー」の考え方です。

 アクティブセーフティーとは、「事故が起きる前に、事故を未然に防ごうとする」考え方を指します。これに対して、「パッシブセーフティー」という考え方もあります。パッシブセーフティーは、「事故が起きた場合の被害を最小限にする」という考え方です。

 これは私の印象ですが、日本人はどちらかというとパッシブセーフティーを重んじるのではないでしょうか。危ないから防具を着けなさい、シートベルトをしなさい、ヘルメットをかぶりなさい――。私たちの身の周りは、こうした事故が起きた場合の被害を最小限にするための決まりごとであふれています。

 一方で、日本人のアクティブセーフティーの意識は、パッシブセーフティーに比べると薄いように思います。