スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます

NVIDIAの成功を決定づけた思考法とは?Photo: Rokas/Adobe Stock

5年、10年後から逆算せよ

 スタートアップを立ち上げる際、現在の市場状況だけにとらわれてはいけない。

 5年、10年先の未来を見据え、「需要に対して供給が圧倒的に不足する領域はどこか?」「次のパラダイムシフトの震源地はどこか?」を見極めることが重要である。

 日本を代表する起業家・佐藤航陽氏は、著書『未来に先回りする思考法』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)において、「世の中の流れを読み、今どの場所にいるのが最も有利なのかを適切に察知する能力」の必要性を説いている。

 この洞察力こそが、時代の先駆者と追随者を分ける決定的な要因となる。

 1990年代前半、インターネット黎明期にその可能性を見抜いた先駆者たちが、後に世界を席巻したのは偶然ではない。

 同様に、2026年の今、まだ黎明期にある技術パラダイムに目を向けることができれば、20年後の覇者となる可能性を秘めている。

 現在、AGI(汎用人工知能)、量子コンピューティング、脳コンピューターインターフェース、自律型AIエージェント、合成生物学、宇宙産業の民間化といった分野は、まさに30年前のインターネットと同じ状況にある。技術的基盤は整いつつあるが、真の実用化と大衆化はこれからだ。

未来から逆算する思考法

 Y Combinatorのパートナーであり著名投資家のポール・ブックハイト氏は、「未来に生き、欠けているものを作れ」という含蓄に富む言葉を残している。

 これは、2030年や2035年の世界の姿を鮮明に思い描き、そこから逆算して今、何を構築すべきかを考えよという戦略的思考法である。

 現在の延長線上で考えるのではなく、未来の理想像から現在を見つめ直すことで、真に革新的なソリューションが生まれるのである。

 この逆算思考法の成功例として、NVIDIA(エヌビディア)の戦略を見てみよう。

 NVIDIA経営陣が「汎用並列コンピューティング」を推進し始めたのは2000年代前半のことだ。そこからCUDA(クーダ/並列計算プラットフォーム)の普及を経て、AI研究が爆発的に花開くまで実に10年を要した。

「1995年頃からインターネット時代がスタートし、10億人のPCユーザーが生まれた。その10年後には、モバイル時代が始まり、25億人のユーザーを生んだ。そして現在、GPUディープラーニングにより、ソフトウェアやマシン自身が学習する、インテリジェントデバイスのAI時代が始まった」。

 NVIDIAのジェンスン・ファンCEOは、2016年のGTC(GPU Technology Conference、NVIDIA主催)でこう語っている。

 特筆すべきは2012年の判断である。

 小さな研究者グループがAlexNet(畳み込みニューラルネットワーク)という画期的な画像認識システムを発表すると、ファン氏は即座にAIに集中するよう会社の舵を切った。この判断が、現在のAI覇権につながっている。

 NVIDIAの成功は、研究者コミュニティの声に耳を傾け、巨額のR&Dを信念に基づいて継続した結果である(図表1-3-4)。

(本稿は増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2の一部を抜粋・編集したものです)

田所雅之(たどころ・まさゆき)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。