大阪なら「金龍ラーメン」、大衆食堂の「大阪屋」や「丸徳」、沖縄の中華の「燕郷房」、ソーキそばの「EIBUN」、てびち定食の「花笠食堂」なども、そうやって人伝に聞いたり自分の嗅覚で見つけたりしたおいしい店だ。
夫婦2人で切り盛りする
金沢の絶品中華
確か、金沢の繁華街のど真ん中にある昔ながらの町中華の店も、知り合いの誰かに教えてもらって行ってみたのが初めてだったはずだ。
「おにいさん、どこ行くの?」
「キャバクラ、あるよ!」
「寄ってかない?」
激しい呼び込みの嵐を掻き分け、掻き分け、分け入った先にようやく見つけたのが古びた雑居ビル。そのビルの2階に、昭和30年代にタイムスリップしたかのような佇まいの店「中華飯店 天和」はあった。
見たところご夫婦2人だけでやっているようで、座席はカウンターのみだった。飲んだ後に立ち寄ったという風情のサラリーマンや水商売風のお姉さんが2、3人いた。
メニューは塩バターラーメン、みそラーメン、四川ラーメン、もやしラーメンなどいろいろあるけれど、一見の店で少々迷ったときは最もシンプルなラーメンを頼むことにしている。あとは餃子を一人前と瓶ビールだ。
出てきたラーメンは、具が刻みねぎ、チャーシュー、なると、めんまだけ。あっさりした醤油味のすごく素朴な優しい味だった。この感じ、まるで店のご主人のようだなあとも思う。
僕は店の人とそんなにしゃべったりはしないので、あくまでぱっと見の印象からの推測だけれど、おそらく長いことこの雑居ビルの中で店を切り盛りしているのだろう。大将の年齢は70歳に届くくらいのようにも見える。
地元の人たちに愛され続けなければ、表通りからまったく見えないビルの中で、店を続けられるわけがない。
ずずっと麺をほおばる。旨い。汁もずずずっと啜る。旨い。
誰もしゃべらない静かな店内は、ラーメンを啜る音と餃子を焼く油の爆ぜる音だけが響いている。最後の一滴まで、ラーメンのスープを飲み干した。
同書より転載







