将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

【医師が教える】認知症になりやすい人がしている「勘違い」・ワースト1Photo: Adobe Stock

「体に悪いものは取り除けばいい」という勘違い

 体の健康のために、サプリメントを飲んでいる人は少なくない。

 たとえばビタミンEは、活性酸素を除去する効果があることから、アスリートから一般の人にまで広く使用されている。

 活性酸素を減らす。
 細胞の老化を防ぐ。
 脳を守る。

 そんな言葉を聞くと、「悪いものはできるだけ取り除いたほうがいい」と思ってしまう。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏も著書『糖毒脳』で、活性酸素についてこう紹介している。

 活性酸素とは、体内で酸素が代謝される際に発生する副産物です。全身の臓器の細胞で発生し、もちろん脳を構成する神経細胞でも発生します。細胞の中には過剰な活性酸素を除去する仕組みが備わっていますが、活性酸素が大量に発生して蓄積してしまうと、細胞がダメージを受けて死んでしまう場合があります。
――『糖毒脳』より引用

 活性酸素は、たしかに増えすぎれば細胞にダメージを与える。

 しかし、そのうえで下村氏は、同書の中でこうも述べている。

 というように、近年はすっかり悪者扱いされている活性酸素ですが、一方で、意外な事実もあります。
――『糖毒脳』より引用

 活性酸素を「完全に悪者」と決めつけるのは早いようだ。

「悪玉」に見えるものにも役割がある

 下村氏は、活性酸素が体内で果たしている役割について、次のように説明している。

 たとえば、運動の調節に深く関与する「小脳」では、活性酸素が多く発生する仕組みになっています。そして興味深いことに、小脳は活性酸素を利用して、神経細胞同士の情報伝達を調整し、運動に関する記憶(運動記憶)を作り出しているのです。
――『糖毒脳』より引用

 つまり活性酸素は、ただの有害物質ではない。

 私たちの体の中で、必要な働きも担っている。

 実際、活性酸素を抑えすぎることで、かえって問題が起きる可能性もあるという。

 2024年に京都大学の研究チームが、マウスに活性酸素の産生を抑えるべくビタミンEを過剰に与えたところ、運動記憶の障害が起きたと報告されています。
――『糖毒脳』より引用

「体にいい」と思って摂ったものが、かえって脳や体の働きを妨げる。

 これは、多くの人にとって意外な事実だろう。

 体の仕組みは、そこまで単純ではない。

 健康のために始めた習慣が、必ずしも脳を守るとは限らない。

 必要なのは、何かを極端に排除することではなく、バランスを崩さないことだ。

「体によさそう」というイメージだけで判断しない。

 それが、認知症予防において大切な姿勢なのかもしれない。

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。