バスキアは1988年にわずか27歳で早逝しますが、死後、その評価はさらに神格化され、美術館での回顧展や国際展での再評価が続きました。

美術関係者同士が手を組み
バスキアの価値を高めていった

 特に注目を集めたのが、2017年のサザビーズ・ニューヨークでのオークションです。1982年に描かれた無題の作品「Untitled」が、1億1050万ドル(当時のレートで約123億円)で落札されたのです。落札者は日本人実業家の前澤友作氏です。前澤氏はバスキア作品史上最高額を支払った世界初のアジア人として、その名を知られることになりました。

 この作品の初期価格は、1980年代当時で1万9000ドル(約250万円)程度だったと推定されています。そこからおよそ6000倍近く価格上昇があったことになります。

 しかし、価格の高騰は偶然ではありません。2010年代に入ってから美術館での大規模な展覧会(MoMA、グッゲンハイム、ルイ・ヴィトン財団など)が相次ぎ開催され、批評家からの再評価、出版物、ドキュメンタリー映画の公開など、メディアと学術的文脈の両面で「バスキア再発見」の機運が高まっていました。この動きに連動して、コレクターやギャラリー、オークション会社がバスキア市場に注力し、入札競争が激化。価格は跳ね上がり、作品の売買そのものが「イベント」として機能し始めたのです。

 このように、ギャラリーによる市場形成、評論家による文脈化、美術館での展示履歴、そしてコレクターによる話題化――これらの要素がすべて揃ったとき、アートの価格は現実離れしたレベルにまで到達するのです。

 そのプロセスは、ギャラリー、評論家、キュレーター、コレクター、メディアといった人々の思惑が絡み合い、互いに影響を与えながらつくり上げていく評価のエコシステムによって支えられています。

 それは、あたかも1人のスターをつくり上げるためにレコード会社、テレビ局、雑誌社、広告代理店が連携するようなメディア産業と酷似しています。アーティストはパッケージ化されていくブランドでもあるのです。