「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく

「ジョブ型人事を導入すれば解決する」と思っている経営者が、なぜ失敗し続けるのかPhoto: Adobe Stock

なぜ「ジョブ型なら解決できる」
という期待が生まれるのか

――ジョブ型人事を導入すれば組織の問題が解決すると考える経営者は多いと思います。この考えはなぜ生まれるのでしょうか?

 海外ではジョブ型人事制度が一般的だからです。広く使われているならば、いいものに違いないという考え方は自然な流れだと思います。

――実際のところ、その考えは妥当なのでしょうか?

 海外の場合は個人が最小単位であり、ジョブ型も「個人の役割を明確に定義する仕組み」として機能しています。

 それに対して日本はメンバーシップ型と呼ばれています。これは、特定の職務ではなく「組織の一員であること」を前提に役割が決まる考え方です。村社会的な特性を持つ日本の組織は、長く小集団を基本単位として機能してきました。どれほど大きな組織になっても、その本質は小集団の集合体です。

 そのため海外のように個人を対象としたジョブ型人事を導入しても、日本ではうまく機能しません。最小単位が根本的に異なるからです。

 さらに日本の小集団は多目的型という特徴を持っています。一人の個人は基本的に一つの集団に属し、その中で序列やポジションが定まりながら、小集団として複数の役割や目的を担います。

 これに対して欧米では、個人が目的に合わせて複数の集団に属し、各集団が持つのは基本的に単一の目的です。

 また欧米の組織は機能ごとにモジュール化されており、それぞれの役割が明確に定義されています。社会構造そのものが異なる以上、そのまま制度だけを持ち込んでも機能しません。

日本をジョブ型にすることで起きる
具体的な問題

――では、日本の組織でジョブ型を導入すると、現場ではどのような問題が起きるのでしょうか?

 まず、最小単位が個人ではない日本組織においては、個人の役割だけを定義しても組織としてはうまく機能しません。日本の小集団は、一つの組織が複数の役割を担いながら柔軟に動くという特徴があります。そのため、組織としての役割やミッションも固定されにくい構造になっています。

 日本の小集団はアメーバのように形を変えながら、さまざまな役割を柔軟にこなします。これを個人単位で固定化してしまうと、本来の多目的性や柔軟性を失うリスクがあります。

 つまりジョブ型の導入は、日本の組織が長年培ってきた「現場が柔軟に考えて自ら動く」という強みそのものを損なう可能性があるのです。

「メンバーシップ型のままでいい」のか?

――では、日本の組織はメンバーシップ型のままでよいのでしょうか?

 国内を中心に事業を展開するのであれば、メンバーシップ型の方が機能的に動くことができます。現場が考えて実行するという強みが活きるからです。

 ただし海外に進出する場合は事情が異なります。

 海外では個人が最小単位ですから、どのような目的に対してどのような人材が必要かを個人単位で定義しなければ機能しません。そうしなければ個人は力を発揮できず、従業員エンゲージメントも低下し続けます。

 したがってグローバル企業では、海外はジョブ型、国内はメンバーシップ型という使い分けが現実的です。最も避けるべきは中途半端な導入です。日本式にするなら徹底的に日本式、海外はジョブ型。この割り切りができるかどうかが成否を分けます。

――では、日本型組織の強みを活かすために、どのような前提や注意点が必要なのでしょうか?

 日本型組織の強みは、現場が臨機応変に形を変えながら、自ら考えて戦略を実行できる点にあります。

 ゴールが明確で役割が固定されている状況ではジョブ型が有効に機能しますが、現代のように変化が激しく正解がない時代においては、現場が状況に応じて考えながら動く日本型のアプローチが非常に有効です。

 ただし重要なのは、この強みを放置しないことです。現場に任せきりにすると、組織全体としてバラバラに動いてしまいます。そのため経営陣は、方向性を示し、資源配分を明確にする必要があります。

 現場の自律性と経営陣のリーダーシップ。この両輪がそろって初めて、日本型組織の強みは最大限に発揮されます。

日本型組織を機能させる
「戦略のデザイン」とは何か

――本書『戦略のデザイン』のタイトルにある「デザイン」という言葉が印象的です。日本型組織の強みを活かすという考え方と、どのようにつながるのでしょうか?

 今お話ししたように、日本型組織は現場が自ら考えて動く力を持っています。ただ、その力も方向性がなければうまく機能しません。

 デザインとは、形のないものに形を与えることです。日本型組織の強みである「現場が自ら考えて動く力」も、方向性という形を与えて初めて機能します。

 戦略をデザインするとは、正解がない中で自分たちの勝ち筋を描き続けることにほかなりません。

 この本では、そのための思考プロセスを10の問いとして体系化しています。戦略づくりをセンスではなく思考のプロセスとして捉えることで、経営者からマネージャーまで、誰でも実践的に戦略を描けるようになります。

――最後に、導入に悩む経営者・マネージャーへの具体的なアドバイスをお願いします。

 まず「何を目指すのか」を明確にすることです。

 国内中心の事業であれば、ジョブ型を無理に導入する必要はありません。むしろ強みを失うリスクがあります。すでに導入して現場が混乱しているのであれば、メンバーシップ型に戻す判断も重要です。

 一方で海外展開を本格的に進めるのであれば、ジョブ型を徹底する必要があります。中途半端な導入は組織を弱体化させます。

 日本は日本、海外は海外と割り切って方針を定めること。この明確な意思決定こそが、組織を正しく機能させる出発点になります。

 本書『戦略のデザイン』では、このように「何を目指すのかを問い直す」ことを戦略の起点として位置づけています。組織の構造や人事制度に悩む方にとっても、自社の戦略の方向性を根本から見直すきっかけになるはずです。

――ありがとうございました。

坂田幸樹(さかた・こうき)
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。