「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。戦略とは何か。変化の時代に、企業は何を問い直すべきなのか。本連載では、さまざまな経営や組織の悩みについて坂田氏に話を聞きながら、同書の考え方を現在進行形の課題へと結びつけていく。
Photo: Adobe Stock
なぜ、戦略は「社内向け」になってしまうのか
――戦略を考えているはずなのに、うまくいかない人が多いのはなぜでしょうか?
多くのビジネスパーソンは、上司に言われた方針をもとに思考を始めます。それ自体は自然なことで、大企業であれば割と普通のことです。
しかし、これでは、「上司が考えたこと」が思考の上限となってしまい、そこを越えて思考する人はなかなかいません。
一方、スタートアップであれば、初期の頃は顧客を起点に発想します。
しかしながら、時間が経つにつれて競合を意識するようになります。そして、組織のプロセスや稟議フローなどが次第に整備されてくると、ついには社内の事情に思考が引っ張られていきます。
その結果、「上司にどう評価されるか」「社長にどう響くか」といったことばかり考えてしまう。もちろん、社内で通るかどうかは重要な視点です。
でも、本来最初に考えるべきは、「顧客にとって何が価値か」です。この順番を間違えると、戦略はいつの間にか“社内向けの資料”になってしまいます。
――では、顧客起点で考えるとは、具体的にどういうことなのでしょうか?
戦略を立てる際、まず必ず次の2つの問いを自分に投げかけてください。
「この戦略の先に、誰の笑顔がありますか?」
「この戦略が実現することで、10年後の世の中はどう変わりますか?」
これは私の著書『戦略のデザイン』で提示している10の問いの中の、最初の2つです。
この2つをもとに「視点」を固めることが極めて重要です。ここがずれていると、その後どれだけ精緻に戦略を作っても、本質的な価値は生まれません。
「誰の笑顔があるか」を問うと、現場に足が向く
――「この戦略の先に誰の笑顔があるか」を考えると、実際の仕事はどう変わるのでしょうか?
一番大きいのは、現場に目が向くことです。
事業計画や中期経営計画のようなものを作っていると、どうしても資料づくりやフレームワークの整理に時間を使ってしまいます。それ自体が無駄とは言いませんが、本来最初に考えるべきは、「誰の、どんな問題を解決するのか」です。
これは市場データや業界トレンドだけを見ていても見えてきません。実際に現場に足を運び、顧客の声に触れ、「自分がどこで違和感を持ったのか」「何に心が動いたのか」を考える必要があります。
こうした具体に向き合うことで初めて、戦略は現実に根ざしたものになります。
なぜ「10年後」という長いスパンで考えるのか?
――もう一つの「10年後の未来はどう変わるか」という問いには、どんな意味があるのでしょうか?
私たちは普段、オペレーションの世界で生きています。今月の売上をどうやって作るか、今月の商品をどうやって納入するか、今月の経営会議にどんな資料を上げるか。すべて目の前のオペレーションの話です。
しかし戦略は、本来そこから一度離れる必要があります。
一度現状から離れ、10年後の視点からバックキャストして考えることで、現在の制約や前提をいったん外すことができます。そうすると、既存の延長ではない未来を構想することができるようになります。
目先の数字に追われているうちは、本質的な戦略には決してたどり着けません。だからこそ、時間軸をずらして考える視点が重要になります。
2つの問いを持つことで、「視点」が定まる
――この2つの問いは、「戦略のデザイン」とどう関係しているのでしょうか?
デザインとは、形のないものを形にすることです。戦略も同じで、不確かな未来の中から選択肢を可視化し、チームが動くための地図を描く行為です。
「誰の笑顔があるか」「10年後はどう変わるか」という問いは、その地図におけるいわば出発点と目的地を定めるものです。ここがずれていれば、どれほど精緻な地図を描いても目的地には辿り着けません。
――この2つの問いを持つことで、日々の仕事はどう変わりますか?
目先のことに振り回されなくなります。社内事情に引っ張られずに、「本当に価値があることは何か」を起点に考えられるようになります。
そこから、自分が本当に実現したいことは何か、どのように世の中を変えたいのかを考えられるようになります。そのために、目の前の誰のどんな悩みを解決すべきなのかを、より深く捉えられるようになります。
『戦略のデザイン』では、一つひとつの問いを具体的な事例を交えて解説しています。さらに、各問いには細かいチェックポイントも設けられていますので、日々の活動を振り返るきっかけとしても活用していただけます。
戦略のデザインはセンスではありません。本書で提示した戦略を組み立てるための10の問いに沿って考えることで、誰でも実践的な戦略を描けるようになります。この本を手に取っていただければ、それを実感していただけるはずです。
――ありがとうございました。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




