突然降ってきた急ぎの仕事。断りたいけど、断れない。結果、残業と休日出勤で乗り切る――そんな働き方をしていないだろうか。書籍『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)では、アメリカの一流エンジニアたちが、上から降ってきた無茶な締め切りを見事に交渉するエピソードが描かれている。著者は、外資系IT企業で日本オフィスを経て、現在は米国本社でプロダクト・マネージャーとして働く福原たまねぎさん。同書から一部を抜粋して紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)
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「締め切り」よりも大事なこと
『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)
スケジュールを作る上で欠かせない「締め切り」についてここで話しておきたい。
ぼくが今働いている職場ではあまり「締め切り」、つまり「Deadline(デッドライン)」という言葉は使わない。代わりに「ETA(Estimated Time of Arrival)」、つまり仕事の「完了予定時間」を伝えるようにしている。
タスクを分解して、その一つ一つに時間の見積もりを立てて、それを積み上げたときに見えてくる「だいたいこのぐらいの時期にプロジェクトが完了するだろう」という目安もETAだ。
このETAがどれだけ大事かを理解した出来事があった。
秒速の締め切り交渉
開発チームを束ねるサトイモさんが、上層部の集まるミーティングで“うっかり発言”をしてしまった。「年内にあの機能を実装させます!」と宣言してしまったのだ。
その瞬間、チーム全員の脳内で「はい、これは無理コースですね」という思いが同時に発火した。でも、その場で誰も何も言えず、ミーティングは終了した。
ここからがすごかった。ミーティングが終わるや否や、ぼくらの直属の上司のタケノコさんが号令をかけた。
「タスクを分解して見積もりをしよう。そして現実的にいつまでに完了できるか、ETAを出そう」
エンジニアたちは即座に団結して、タスクを細かく分解し、見積もりを始めた。「これは3週間はかかる」「1週間は余白を入れよう」と真剣そのもの。すさまじい集中力だった。
そうして出た答えは、「どう頑張っても来年3月の完成」というものだった。
ぼくとタケノコさんは、そのプランをサトイモさんに伝えた。サトイモさんはしばらく唇を噛みしめて沈黙したあと、絞り出すように聞いた。
「削れる機能はあるか?」
タケノコさんは0.03秒ほどで即答した。
「P1(なくても成り立つ)の機能は最初から全部外しています」
部屋に緊張した空気が流れた。
しばらくして、サトイモさんはこちらをまっすぐ見て、覚悟を決めたように言った。
「分かった。来年3月の完成にしよう」
このエピソードが示すのは、信頼性の高い見積もりさえできれば、締め切り交渉もできる、ということだ。
「締め切り」は上から与えられる。一方で「ETA」は現場が見積もりに基づいて提出する。この上からの「締め切り」と下からの「ETA」をすり合わせることで、理想と現実のギャップが明確になり、本当に意味のある期限設定が可能になる。
だからこそ一流のエンジニアたちは、見積もりの正確性を高めるために、チームで議論しながらETAを弾き出しているわけだ。
※本記事は書籍『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)からの抜粋記事です。(記事の内容は個人の意見であり、所属会社・団体を代表するものではありません)



