「人を育てる」とはどういうことか。コンサルタントとして1万人以上のビジネスパーソンと向き合ってきた安達裕哉氏(『頭のいい人が話す前に考えていること』)が、いま最も知りたいと語るスキルがある。「ほめる」ことだ。評価を下すのではなく、相手を伸ばす――その道を極めたのが、手書きのメッセージで全国の小学生を励まし続けてきた進研ゼミの「赤ペン先生」である。本連載では、赤ペン先生の全国代表を務める佐村俊恵氏(『57年間、9200万人の子どもを励まし続けた赤ペン先生のほめ方』)を安達氏がインタビューし、その「ほめ方」の極意をひもといていく。(構成/藤田美菜子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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叱るよりも、ほめるほうが難しい
安達裕哉(以下、安達) 佐村さん、本日はよろしくお願いします。赤ペン先生といいますと、私も小さいころ、進研ゼミでさんざんお世話になりまして。本当にありがとうございますという気持ちなんです。
佐村俊恵(以下、佐村) こちらこそ、ありがとうございます。
安達 今日はぜひ、プロによる「ほめ方」の極意をお聞きしたいと思っています。というのも、親として子どもに接するにしても、経営者として部下に接するにしても、やはりほめるほうが難しいんですよ。
佐村 そうですよね。
安達 うちにも小学生の子どもが2人いますが、特に勉強が好きというわけでもなくて……。イヤイヤ机に向かって、いい加減な字で宿題をやってきたのを「はい」と見せられても、「ここでほめていいのかな?」と迷います。それが子どものためになるのかなと。同じ迷いを抱える読者も多いと思うので、ぜひ突っ込んでお話を伺っていきたいと思います。
佐村 よろしくお願いします。
「作文へのコメント」ひとつが、子どもの心を動かした
安達 佐村さんは、赤ペン先生の「全国代表」でいらっしゃるとうかがいました。
佐村 もっとすごい先生はたくさんいらっしゃるんですけれども……。役割としては、答案の添削のほかに、採点の判断基準をつくる仕事や、全国に7000人ほどいる赤ペン先生からの相談に答える窓口もやっていますね。
安達 佐村さんご自身は、どういうきっかけで赤ペン先生になられたんですか。
佐村 確か娘が小学3年生のころだったと思うのですが、進研ゼミの最終月号に作文の問題がありまして。そこに「今のクラスがすごく楽しいから、クラス替えをしたくない」といったことを、娘がつらつらと書き連ねていたんですね。それに対して担当の赤ペン先生が、それまでの娘とのやりとりも全部踏まえたうえで、すごく娘に寄り添った声かけをしてくださったんです。
「○○ちゃんには素敵なお友達がたくさんいて、いい思い出がたくさんあるから、きっと次の学年でも人に優しくいられるし、自分らしく輝けるはず。だから大丈夫」と。
安達 作文に、そこまで親身なお返事を。
佐村 たった3行だったんですけど、先生の赤い丸い文字と、その言葉が、娘の不安を前向きな期待に変えてくれたんですね。
親子ともども、本当に心を動かされて。そうしたら半年も経たないうちに赤ペン先生の募集があったので、これはぜひと応募したのがきっかけです。私自身、ここまで他人に寄り添った言葉をかけられる赤ペン先生という存在に励まされた一人なんです。
累計8万枚の答案を見たからこそわかる「子どもの気持ち」
安達 とはいえ、そういう言葉をかけられるようになるには、相当な訓練が要りますよね?
佐村 採用になってから数カ月間は、きっちり研修を受けます。正直に言って、大人になってからこんなに厳しい目に遭うのかと思うくらい、厳しい研修でしたね。
安達 ただ答案を見るだけでなく、その向こう側にいるお子さんが何を考えているのか……というところまで読み取って、声かけをしなくてはならないわけですもんね。
佐村 そうなんです。たとえば「この子はこう解答してきたけれど、単なる間違いとは違う。どんな切り口で指導したらいいんだろう」とか。
あるいはお便りで「学校に行きたくない」という発信があったときに、「どんな背景でこの子はそう思ったんだろう」と考えながら、返事を書く。私もいまは全国の先生から相談を受ける立場ですが、皆さん、一枚一枚の答案に本当に一生懸命向き合っていますね。
安達 どうすれば、子どもの心が読み取れるようになるのでしょう?
佐村 やはり一朝一夕にできるものではなくて、何枚も何枚も答案を見ているうちに「このお子さんは、こう考えてこう書いたんだろうな」と、だんだん見えてくるんですよ。確たるエビデンスがあるわけではないのですが、ここはやはり経験が物を言うのだと思っています。
安達 ひと月にどれぐらい添削されるんですか。
佐村 多いときで月に400枚ぐらいでしょうか。20年あまり続けてきて、累計だと8万枚ぐらいになりますね。
「採点」ではなく「その子を丸ごと肯定する」
安達 お話をうかがっていると、「採点する」というより「人と人のやりとり」に重きを置いていらっしゃる感じがします。
佐村 私たち赤ペン先生の存在意義は、答案の正解・不正解を指摘するだけでなく、その子を丸ごと肯定することにあると思っています。
研修でも「何があっても、子どもたちを絶対に否定しない」という行動規範を徹底的に学びます。もちろん、子どもたちには勉強ができるようになってほしい。
でもそれ以上に、勉強を好きになってほしいし、勉強を続ける子になってほしい。そして、「自己肯定感」を持って、自分のことを本当に好きでいてほしい。それでこそ子どもは伸びるし、結果も出せる――それが、57年間受け継がれてきた赤ペン先生の結論なんです。
安達 いまのお話は、子育てに限らず、部下を育てるマネジャーなどにとっても重要な指摘と言えそうですね。



