独りトイレに行って、鏡の前に立ち、自分の顔をじっと見る。「本当に世界一になる柔道家の顔をしているのか?」「そういう柔道家の目をしているのか?」を確認しながら、自分にこう言い聞かせるのだそうです。

「お前は、ビビッて負けるためにここに来たのか? 負けるためにここまで練習を重ねてきたのか? そうじゃないやろ?」

 そして、今日この日までに積み重ねてきた、苦しくてしんどい練習を思い出しながら、「一日一日、自分が納得できるような日々を過ごしてきたのか?」と自分に問いかけます。つまり、「自分がやってきた事実」を確認するのです。

 このときに、「よし!」と腹の底から思えるかどうか、それが勝負。「よし! 俺はできる限りのことをやってきた」と思えたら、スーッと腹がすわってきて、弱気な自分が消える。

 そのうえで、自分の目をまっすぐに見つめながら、「今日は、これまでにやってきたことを信じて、それを出すだけや」と語りかけて覚悟が固まったところで、冷たい水で顔をパチンとやって、闘いの場に臨む。オリンピック3連覇という偉業の陰には、このようなルーティンがあったのです。

「自分がやってきたこと」への確信こそが、
本物の「自信」を与えてくれる

 この話を聞いて、深く腑に落ちるものがありました。

 僕の理解はこうです。
 試合前の野村さんには、「相手に勝つ」という自信があったわけではないと思います。だけど、野村さんには、「自分で『やる』と決めた約束を守り続けてきた」という事実に対する確信がありました。この確信こそが本物の自信だと思うのです。

 だから、「勝つ」ことを信じることはできなくても、「自分の柔道」を信じることはできる。そして、その「自分の柔道」を思いっきりぶつければ、勝つか負けるかの結果はどうであれ、その「闘い」に恥じるものは一切ない。そのことを信じることこそが、本当の意味での自信だと思うのです。

 そして、その境地に立ったからこそ、野村さんは最高のパフォーマンスを発揮されたのではないでしょうか。
 なぜなら、そのとき、「勝ち負け」という結果を超越して、一切の邪念なく、ただひたすら「自分の柔道」をすることにのみ100%集中しているからです。この集中力こそが、パフォーマンスを最大化する秘訣であるはず。逆説的ですが、「結果」を超越するからこそ、「結果」を出す確率が最大化されると思うのです。

「ポジティブ思考」がいらない理由

 これは、仕事でも同じことです。

 たとえば、プルデンシャル生命の営業マンだったころ、僕は毎日、お目にかかるお客様に最適な生命保険をプレゼンしていましたが、「うまくいかないんじゃないか?」「断られるんじゃないか?」と常に不安を抱えていました。

 そんなときに、妙なポジティブ・シンキングで「大丈夫、きっとうまくいく」などと自己暗示をかけようとしてもほとんど意味がありません。

 なぜなら、自分を誤魔化すことはできないからです。

 お客様としっかりとコミュニケーションをとり、お客様のことをよく知り、お客様が「何を求めているのか」「何を心配しているのか」を徹底的に考え、お客様にとって最適なプランを作り上げる。このプロセスを嘘偽りなくやり切ったかどうか。それは、自分が一番よくわかっているのです。

 だから、もしもそれをやり切っていれば、妙なポジティブ・シンキングなどせずとも、「自分はまっとうな仕事をしている」という確信をもってプレゼンに向かうことができるはずです。

 逆に、そのプロセスをなおざりにしているのであれば、どんなにポジティブ・シンキングをやったところで自信など生まれるはずがありません。人間は、そんなに安っぽくできてはいないのです。

「結果」を超越したときに、
とんでもない「結果」が出る

 もちろん、万全の準備をしたからといって、必ず契約をお預かりできるわけではありません。
 だけど、「それでいい」と達観することが大切。そもそも、保険はお客様のものであって、営業マンのものではありません。にもかかわらず、自分の売上のために「保険を売ろう」とする営業マンを、お客様が信用してくれるはずがありません。「保険を売ろう」とするから、「保険は売れない」のです。

 それよりも、お客様の役に立つ情報を提供して、お客様の困りごとを解決したり、願いごとをかなえたりするお手伝いをするという、営業マンとしての本分(=サービス)に徹することに集中するべきなのです。

 その「本分」=「やるべきこと」をコツコツと積み重ねているという「事実」を確信できれば、そこには、自然と「自信」が備わります。そして、その本物の「自信」が自然と伝わることによって、お客様の「信頼」を勝ち取ることができるのです。

 そして、お客様の「信頼」を勝ち取ることさえできれば、そのときは契約をお預かりできなかったとしても、いずれお客様が「保険に入りたい」と思ったり、お客様の家族・知人に保険の必要性が生じたときには、放っておいても僕に連絡をいただけるようになります。つまり、「結果」は返ってくるのです。

 結局のところ、僕がプルデンシャル生命で「日本一」になることができたのは、こうした営業マンとしての当たり前の「本分」を、誰よりも愚直に積み重ねたからというだけのことだと思うのです。

 読者のみなさまのお仕事もそうではないでしょうか?
 大切なのは、それぞれのお仕事の「本分」を、一日一日コツコツと積み上げること。それが、自分に一切の嘘をつくことなくやり切ることができたときに、僕たちは本物の自信を手に入れることができる。そして、最高の「結果」を出すことができるようになるのです。

(この記事は、『超⭐︎アスリート思考』の一部を抜粋・編集したものです)

金沢景敏(かなざわ・あきとし)
AthReebo株式会社代表取締役、元プルデンシャル生命保険株式会社トップ営業マン
1979年大阪府出身。京都大学でアメリカンフットボール部で活躍し、卒業後はTBSに入社。世界陸上やオリンピック中継、格闘技中継などのディレクターを経験した後、編成としてスポーツを担当。しかし、テレビ局の看板で「自分がエラくなった」と勘違いしている自分自身に疑問を感じ、2012年に退職。完全歩合制の世界で自分を試すべく、プルデンシャル生命に転職した。
プルデンシャル生命保険に転職後、1年目にして個人保険部門で日本一。また3年目には、卓越した生命保険・金融プロフェッショナル組織MDRTの6倍基準である「Top of the Table(TOT)」に到達。最終的には、TOT基準の4倍の成績をあげ、個人の営業マンとして伝説的な数字をつくった。2020年10月、AthReebo(アスリーボ)株式会社を起業。レジェンドアスリートと共に未来のアスリートを応援する社会貢献プロジェクト AthTAG(アスタッグ)を稼働。世界を目指すアスリートに活動応援費を届けるAthTAG GENKIDAMA AWARDも主催。2024年度は活動応援費総額1000万円を世界に挑むアスリートに届けている。著書に、『超★営業思考』『影響力の魔法』(ともにダイヤモンド社)がある。