「目標から逆算して行動する」多くのビジネスパーソンは、これが常識だと考えているのではないでしょうか。もちろん、これは求める成果を生み出すために必要不可欠な行動原則です。しかし、「目標から逆算」しようとすると、かえって行動ができなくなることもしばしばあります。なぜ、そんなことが起きるのか? そして、どうすればその壁を乗り越えることができるのか? この記事では、柔道で五輪3連覇を達成した野村忠宏さんのエピソードを紹介しながら、この問題の答えを探ります(この記事は、『超☆アスリート思考』(金沢景敏・著)を抜粋したものです)。

「目標から逆算する」のが正解とは限らない“深い理由”写真はイメージです Photo: Adobe Stock

トップアスリートは、誰もが「逆算思考」を徹底する

 目標から「逆算」して準備をする――。
 これは、すべてのトップアスリートに共通する思考法です。

「富士山を登ろうと思わなければ、富士山には登れない」とよく言われますが、まさにそれです。富士山には普段着では登ることはできませんし、急勾配の山道を歩く気力と体力も欠かせません。「富士山を登る」という意思を固めたうえで、そのゴールから逆算をして、入念に準備する人だけが、富士山を登頂することができるのです。

 それと同じで、“思いつき”や“その場しのぎ”の努力をしていても、「オリンピックで金メダルを獲る」といった高い目標を達成することは絶対に不可能。「金メダルを獲る」というゴールから逆算して、次のオリンピックまでの4年間で、どんな準備をするかを見極めたうえで、それを着実に実行していかなければなりません。

 たとえば、柔道家の野村忠宏さんは、初出場のアトランタ五輪で金メダルを獲ったあと、4年後のシドニーでの「2連覇」という目標を立て、次のように逆算しました。

1)4年間で起こり得る変化――ルールの変更、技術の進化、新しいライバルの出現、自分が金メダリストになったことによる変化など――をリアルに予測する

2)自分が得意とする「背負投げ」は、世界中の選手に研究されるため、「背負投げ」だけでは連覇できない。4年をかけて、それ以外の技を磨く必要がある

3)オリンピック代表権を獲得するためには、どの大会に出場して、どのような成績を収める必要があるか、そのペース配分をリアルにイメージする

4)代表権を獲得してから、五輪の試合当日までの3~4ヶ月の間に、金メダルを確実に獲得するためにどのように自分をつくり上げていくかを客観的に考え抜く

 このように、4年間でやるべきことを明確な目標にしたうえで、日常生活や日々の練習をそれに合致させていくことを意識しながら、一歩ずつ着実に妥協なく積み重ねていった末に、4年に1日しか訪れない「晴れ舞台」にすべてをぶつけるのです。

「夢」と「目標」を見誤ってはならない

 これは、僕たちの仕事も同じです。
 たとえば、サラリーマンであれば、会社から「年間の売上目標」などが提示されたら、その目標から日々の行動目標を逆算していくことが大切。そして、日々の行動目標をコツコツと積み重ねることによって、「年間の売上目標」を達成していくことが求められるわけです。これは、当たり前のことですよね?

 ただし、ここに実は“落とし穴”があります。
 もちろん、「目標から逆算する」こと自体はまったくもって正しいことなのですが、この概念に囚われすぎることによって、身動きが取れなくなってしまうケースもしばしば見られるのです。

 たとえば、たまに見かけるのが「起業家になる」という目標をもつ若いサラリーマン。「起業家セミナー」などの会場に顔を出すと、そういう若者が熱心に聴講していますし、僕も相談をもちかけられることもあります。

 しかし、話を聞いてみると、「起業家になる」ための具体的な行動は何一つしていない。その理由を探っていくと、「詳細な起業プランを描いて、そこから逆算しなければならない」と思い込んでいるケースが多いのです。

 要するにこういうことです。
 彼らは、なんとなく「起業家」に憧れているだけであって、それは「目標」ではなく「夢」にすぎないということ。そして、そのような彼らが「詳細な起業プラン」など描けるはずがないわけで、そもそも「逆算」など成立しようがありません。だから、彼らができるのは、せいぜい起業家セミナーに顔を出したり、それに類したビジネス書を読んだりするくらいのことであって、それ以上の行動には結びつかないわけです。

 いや、むしろ、誰かにそそのかされて、描けるはずもない「起業プラン」を無理やりつくって、そこから「逆算」して何かを実行しようなどとしたら、取り返しのつかない大失敗すらしかねないと言うべきでしょう。