将来的に5人に1人がなると言われている「認知症」。運や遺伝によってなると考える人も多いが、じつは意外な習慣によって、そのリスクを高めてしまうことがわかった。その影響は20代から始まっているとも言う。
その事実を紹介したのが、オックスフォード大学の研究員として世界的難病の治療法の発見に貢献し、現在は医師としても活躍する脳と糖の専門家である下村健寿氏の著書『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』だ。認知機能を崩壊させる「黒幕」の正体や、そのメカニズム、そして脳を守るための習慣を紹介した同書から、一部を抜粋・編集し紹介しよう。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)

認知症になりやすい人の「体の中で起きている異変」・ワースト1Photo: Adobe Stock

「インスリンの異常」が認知症リスクを高める

 認知症というと「家系の問題」「遺伝だから防げない」と考える人は少なくないが、じつは意外な原因がある。

 元オックスフォード大の医学研究者であり、医師としても活躍する「糖と脳」の専門家である下村健寿氏は著書『糖毒脳』で、こう指摘している。

 じつは私たちの身近なところに、脳を蝕む「魔の手」が潜んでいます。
 それは、日々の食生活に潜む「糖」です。

――『糖毒脳』より引用

 糖を摂って血糖値が上がると、それを下げるためにインスリンが分泌される。

 しかしインスリンの過剰分泌が続くと、やがてインスリンが出づらくなったり、効き目が落ちたりしてしまう。

 インスリンは脳内で「学習」や「記憶」を司る脳神経細胞同士の情報伝達をスムーズにしたり、アルツハイマー病の原因となる「アミロイドβ」などによる攻撃から脳神経細胞を守る役割も果たしている。

 そのため、糖の摂りすぎによってインスリン分泌に異常がおきると、結果として認知症リスクを高めてしまうのだ。

インスリンを出しすぎると「やがて枯れる」

 なぜ糖を摂りすぎると、インスリン分泌に異常が起きるのだろう。

 そこには、膵臓の働きが関係しているという。

 下村氏は、次のように説明している。

 若い頃であれば、どんなにたくさん糖分を含んだ食事をとっても、食べれば食べた分だけ、膵臓のベータ細胞からインスリンがたっぷりと分泌される。
 だから暴飲暴食をしても、それに対応した大量のインスリンを分泌できるので、血糖値が一時的に上昇してもすぐに正常値に戻るわけです。
 しかし何年もの間、ベータ細胞に「大量のインスリンを出し続けろ!」という指令を送り続けると、さすがにベータ細胞も疲れてきます。

――『糖毒脳』より引用

 さらに下村氏は、このメカニズムを「雑巾」にたとえて説明している。

 たとえるならば若い頃のベータ細胞は、インスリンという水をたっぷり吸い込んだ「新しい雑巾」のようなものです。ちょっと絞ればドバドバと水が出てきます。
 しかし何度も雑巾を絞り続けると、雑巾から水分が失われ、絞っても十分に水が出なくなります。ついには乾ききって、水がまったく出なくなってしまうでしょう。

――『糖毒脳』より引用

 このようにして、長年絞り続けられたベータ細胞からは、徐々にインスリンが出なくなってしまう。

 その結果、血液中の血糖値が上昇し始め、糖尿病へと進行し、脳内の認知症リスクも高まってしまうのだ。

高血糖値が引き起こす「炎症」にも要注意

 じつは血糖値が高まること自体も、認知症リスクを高めてしまう。

 下村氏はこうも指摘している。

 さらには、血糖値の上昇は体中に「炎症」を引き起こしてしまいます。血糖の上昇に伴う炎症は全身で起こるため、もちろん脳にも悪影響を及ぼします。
 そして炎症が慢性的に続くことは、脳においてはアルツハイマー病の発症を促すことにつながってしまいます。

――『糖毒脳』より引用

 認知症になりやすい人の体の中は、インスリンの過剰分泌が続き、気づかないうちに「雑巾を搾り続けている」状態なのだ。

 見た目にはわからない。
 数値にもすぐには出ない。

 だが、その負担は確実に積み重なっている。

「異変が起きてから」ではなく、その前の段階で自覚し、改善を図ることが重要なのかもしれない

(本稿は、『糖毒脳――いつまでも「冴えた頭」でいるために知っておきたいこと』の内容を引用して作成した記事です)

下村健寿(しもむら・けんじゅ)
福島県立医科大学卒。同大副理事、医学部病態制御薬理医学講座主任教授。現役内科医でもある基礎医学研究者。日本糖尿病学会東北支部学術評議員。日本内科学会認定内科医。医学博士。群馬県前橋市出身。2004年、日本で働いていた大学医学部から、英国オックスフォード大学への就職を試み、執念の就職活動を実らせて成功。オックスフォード大学正式研究員として、世界を代表する生理学者フランセス・アッシュクロフト教授の薫陶を8年間受けた。その間、新生児糖尿病治療法の発見という世界的快挙に貢献。新生児糖尿病の最重症型であるDEND症候群の脳神経症状治療有効例を報告した論文は米国神経学会誌「Neurology」よりEditorial論文に選出された。貢献を認められて2006年と2010年にオックスフォード大学メリット賞を2度受賞。日本帰国後は、新生児糖尿病に加えて肥満・2型糖尿病などの生活習慣病について、インスリン分泌や脳機能の観点から研究している。