しかし、この場合の「捨てる」とは、「これまでの成功体験や知識を全部捨てろ」ということではありません。二番煎じで成功するのは難しいので、柳の下の2匹目のドジョウを狙うのをやめる、「連続性をいったん断ち切る」という意味です。
具体的な例として、本の執筆ではまったく新規のテーマを模索するようにしています。たとえば、編集者からの突飛な依頼は断らずに、どうやったら原稿が書けるかいったん考えてみるのです。とにかく「来るものは拒まず」という柔軟な姿勢で、まず受けてみます。
実は、この試行錯誤にこそクリエイティブなチャンスがある、と言っても過言ではないのです。
次に「連続性をいったん断ち切る」例も説明してみましょう。過去に食事制限をしてダイエットに成功したとします。次も同じようにダイエットをしようとして「食べないこと」に意識を集中すると、絶食などの無理をしてはリバウンドを繰り返してしまう。そこから抜け出すためには、連続性を断ち切って「食べること」以外に関心をもっていく必要があります。
たとえば、何か新しいスポーツに挑戦してみるといったことは良い選択肢となります。競技スポーツもいいですが、いつもは降りない駅で降りて、一駅分だけ歩いてみるなどもいいでしょう。
何をするか決めないブランク(空白)の時間をつくって、旅行でも音楽でも偶然出会ったものにシフトしていく。こうして次から次へと新しい関心を自分自身に持ち込むことで、自然と「食べること」への意識も薄れていきます。
私はこの方法を「押し出し法」といっています。自分の足りない部分に注目せずに、他のものを取り入れることで意識から押し出していく「究極のプラス思考」です。「捨てる」のは抵抗があっても、「押し出す」ことなら取り入れやすいものなのです。
派手なファッションで講義をして
ベストドレッサー賞を受賞
ただし、ここで1つ大切なポイントがあります。「成功を捨てる」ことに「成功を期待する」のはやめましょう。
フラットな気持ちで、新しいものを取り入れていくことで、面白い人生が拓けることを、私自身がまた最近、体験しました。
『想定外を楽しむ』(鎌田浩毅、幻冬舎)
私は京都大学の教授に就任したときから、授業で意識的に派手な格好をするようになりました。ファッションを派手にすることで、授業での学生の食いつきがまったく違ってくるからです。以後、退官までこのファッションを続け、私の授業は人気となり、「京大の名物教授」と呼んでもらえるようになりました。
初めてテレビに呼ばれたときにも、自分が火山学者だからマグマを象徴する色をと思い、真っ赤な服を着ていったらとても受けました。以後、赤い服は、メディア出演の際の私のトレードマークになりました。
もともとの目的は学生に授業に興味をもってもらうこと、また、火山や地震についての私の発言にみなさんに興味をもってもらうことです。ですが、続けていくうちに、ファッションは私にとって大事な趣味の1つになりました。
それだけでなく、このたび、2025年11月に第54回ベストドレッサー賞(学術・文化部門)をいただきました。派手なファッションを用いて、地震や噴火災害の啓発活動を20年以上行なってきたことが評価されたようです。日頃から、現在は想定外の時代と言っている私にとっても、伝統あるベストドレッサー賞の受賞は超・想定外の出来事で、まさに「素敵な偶然」でした。







