何度も地獄に落ちるのは
細木数子自身
物語は、テレビで大活躍中の占い師・細木数子(戸田恵梨香)が、作家の魚澄美乃里(伊藤沙莉)に自分の生い立ちを語り始めるところから始まる。魚住は、細木をモデルにした小説を執筆することになっている。
作家の魚澄美乃里を演じた伊藤沙莉 Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」 Netflixにて世界独占配信中
魚住に対して細木が語る幼少期は過酷だ。戦後の焼け跡の中、ひもじい思いをする弟妹のために数子は供物のまんじゅうを盗んで与え、自分は土の中のミミズを食べる。母は優しく真っ当な人物だが、殺伐とした環境の中で数子は「騙すヤツより騙されるヤツが悪い」と考えるようになる。
成長した数子は、母の営む小料理屋の手伝いでは飽き足らず、キャバレーで働き、これをきっかけに「自分の店を持ちたい」「事業を拡大させたい」と貪欲な野心でのしあがっていく。
まず、戦後の焼け跡や、昭和の銀座の風景に説得力がある。特に焼け跡で経験した貧しさが数子の人生の原点だったのだろうということが、これでもかというほど伝わってくる。冷やかしのつもりで見始めると、まずこの絵面に圧倒される。邦画でもこのクオリティはあまりない。
そして、ここから描かれるのは、欲望に対して一切のブレーキをかけない人間の姿である。数子はその商才と度胸で、若くして商売を成功させる。しかし成功には挫折がつきもので、彼女は人の裏切りによって何度も「地獄」を見る。地獄から這い上がってはまた地獄に落とされる繰り返しであり、エピソードを重ねても飽きが来ないのは、常に次の転落が待っている構造だからだ。
そしてその人生を垣間見るうちに、視聴者は「これほどの地獄を見ているのであれば、あれほど成功に執着しても仕方ない」と思いそうになる。
これは戦後の混乱期の話なのだが、どこか現代に通じるところがあると感じた。昭和から平成、平成から令和に時代が変わり、高度経済成長期に日本社会が築いた終身雇用制度はほぼ崩壊している。年金が当てにならない若者は、インフルエンサーになって一獲千金を夢見る。「コツコツ働ければ定年後に楽な暮らしができる」とか、「年長者になれば敬われる」といった価値観は過去のものになりつつある。
親世代と同じ生き方が通用しないという意味では、戦後と現代は似ている。細木数子のなりふり構わぬ成り上がり精神は、「親ガチャ」による格差固定に抗おうとする若者にとっても違和感がないのではないか。
戸田恵梨香のキャスティングは
当たりだったのか
おそらく多くの人が、戸田恵梨香が細木数子を演じられるのか?と思っただろう。まず体型が違う。戸田恵梨香は同年代の俳優と比べても、痩せ体型が際立っている。
細木数子を演じた戸田恵梨香 Netflixシリーズ「地獄に堕ちるわよ」 Netflixにて世界独占配信中
本人も、体重を増やせない体質であることからオファーを一度断ったとインタビューで語っている。また、プロデューサーから「真似をしなくていい」「物真似しないで」と言われたことが、引き受ける勇気を持ったともいう。
実際にドラマを見ると、昭和に生きた「悪女」の10代から60代近くまでを演じられるのは戸田恵梨香しかいなかったのではないかと思わせる迫力がある。細木に似ているかどうかで言えば似てはいないのだが、似せようとしていないからこそ見ていられる。モノマネだとノイズになってしまうというプロデューサーの見立ては、当たっていたのだろう。着物やドレスも見事に着こなしていて華がある。
島倉千代子を演じる三浦透子や、細木数子の「運命の相手」を演じた生田斗真など、実力派俳優が脇を固めているのも良い。







