スタートアップが成功できるか、失敗して消えてしまうか? それを決めるのは、Product Market Fit(PMF:プロダクト・マーケット・フィット/市場で顧客に愛される製品・サービスを作ること)を達成できるかどうかにかかっている。『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』(田所雅之著、ダイヤモンド社)は、起業家の8割が読み、5割が実践する起業本のベストセラー『起業の科学』を9年ぶりに大改訂した最新版。本連載では同書から抜粋して、スタートアップの成長を加速するポイントについて、わかりやすくお伝えしていきます。
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サイクル、トレンド、メガトレンド
(Cycle、Trend、MegaTrend)を捉える
これは私が作ったフレームワークで、サイクル(Cycle)、トレンド(Trend)、メガトレンド(Mega Trend)の頭文字を取って「CTM分析」と呼んでいる。
PMFの本質は、今の市場に最適化を目指すのではなく、先述したNVIDIAのジェンスン・ファン氏のように少し先の未来に対して最適化することを考えることである。
これを私はPFMF(Product Future-Market Fit)と呼んでいる。PFMFを達成するためには、未来に対する解像度を高めていく必要がある。
メガトレンド:数十年単位の不可逆的な変化
縦軸に熱量(市場の熱量)と横軸に時間軸を置いた場合、「メガトレンド」とは、数十年単位の流れで続く傾向や嗜好性のことだ(図表1-3-5)。
中長期的に見て最も影響力がある不可逆的なトレンドを指す。たとえば、人口減少と高齢化社会、AIの進化によるシンギュラリティ、デジタル化とクラウドシフト、エシカル消費、分散化社会などが該当する。
最近では、環境問題(Environment)がメガトレンドの一つとして非常に大きな注目を浴びている。世界的にESGやSDGsを強く意識する必要が出てきており、事業を作っていく上で必ず押さえるべきトレンドとなっている。
また、働き方改革やワークライフバランスの重視も、単なる一時的なブームではなく、社会構造そのものを変える不可逆的な流れとして定着しつつある。
トレンド:3~5年続く中期的な波
「トレンド」の時間軸は、サイクルとメガトレンドの中間になる。持続期間は3~5年程度と考えていい。比較的長く続くものの、永遠に続くわけではない。一度、潮目が変わると元の勢いを取り戻すことは難しい。
具体例としては、DtoCモデルの台頭、フードデリバリーサービスの普及、リモートワークの定着、流行りのSNSプラットフォーム(TikTokなど)やガジェット、ウクライナ戦争による経済のブロック化の影響などが挙げられる。
2020年の新型コロナによるマスク特需はトレンドの典型例だ。アイリスオーヤマは月産2億3,000万枚の国内生産体制を構築し、マスク事業だけで200億円の売上を記録した。
しかし、2023年以降は「コロナ禍の巣ごもり需要の減少に伴うマスク事業の販売不振」により業績が大幅悪化し、期初目標9,000億円に対し実際は7,540億円(16.2%減)と2期連続減収となっている。
サイクル:1年以内の短期的な流行
一方で「サイクル」は、短期で上下する流行だ。サイクルとは1年以内に盛り上がって冷める流行りを意味する。一気に盛り上がるが、すぐに熱が冷めるファッションのようなイメージだ。
たとえば、2019年に日本でタピオカが流行った。多くのタピオカ店が街にあふれたが、ブームが収まり、店は激減した(「タピる」という言葉が新語・流行語大賞のトップテン入りするほど絶大な人気を誇ったが、2019年をピークに街中に見られたタピオカ店への行列はほとんど見られなくなり、閉店する店も続出した)。
他にも、2021年のNFTアートブーム、2016年のポケモンGOの爆発的ヒット、2021年の音声SNS「Clubhouse」の瞬間的な盛り上がりなどが、サイクルの好例だ。これらはいずれも、短期間で急激に注目を集めたものの、数ヶ月から1年程度で熱量が大きく低下した。
CTM分析の重要性:誤った分類のリスク
単なるサイクルやトレンドを、「これが世界の不可逆的な変化=メガトレンド」と捉える事業資料を見るときがあるが、これは極めて危険だ。確かに1~2年のスパンで見たら、多くの人に興味を持たせられるかもしれない。
しかし、ある一定期間を過ぎるとその勢いは減速していく。メガトレンドと誤認して大きな投資を行えば、波が引いた後に取り返しのつかない損失を被る可能性がある。
逆に、メガトレンドをサイクルと誤って軽視すれば、市場変化に乗り遅れ、競争力を失うリスクがある。
だからこそ、CTM分析を用いて、目の前の変化が「どの時間軸で起きているのか」を正しく見極めることが、事業の成否を分ける重要なスキルとなるのだ。
(本稿は『増補改訂版 起業の科学 スタートアップサイエンスVer.2』の一部を抜粋・編集したものです)
株式会社ユニコーンファーム 代表取締役CEO
1978年生まれ。大学を卒業後、外資系のコンサルティングファームに入社し、経営戦略コンサルティングなどに従事。独立後は、日本で企業向け研修会社と経営コンサルティング会社、エドテック(教育技術)のスタートアップの3社、米国でECプラットフォームのスタートアップを起業し、シリコンバレーで活動した。
日本に帰国後、米国シリコンバレーのベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。また、欧州最大級のスタートアップイベントのアジア版、Pioneers Asiaなどで、スライド資料やプレゼンなどを基に世界各地のスタートアップ約1500社の評価を行ってきた。これまで日本とシリコンバレーのスタートアップ数十社の戦略アドバイザーやボードメンバーを務めてきた。
2017年、新たにスタートアップの支援会社ユニコーンファームを設立、代表取締役社長に就任。その経験を生かして作成したスライド集『スタートアップサイエンス2017』は全世界で約5万回シェアという大きな反響を呼んだ。
主な著書に『起業の科学』『入門 起業の科学』(以上、日経BP)、『起業大全』『「起業参謀」の戦略書』(ダイヤモンド社)など。





