「言語化にモヤモヤする」
「即答よりじっくり考えるほうが大事」
「口下手のままでもいいじゃない」…
など、まったく新しいコミュ力を説いた書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』が発売された。著者でイラストレーターのヤギワタル氏は、これまで200冊以上の書籍でイラストや装画を担当してきて、今回が初の単著となる。本書では、昨今の「言語化ブーム」に対して警鐘を鳴らし、「言語化“以外”に目を向けること」をイラストレーターならではの視点で面白く解説している。本記事では、その中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

感じの悪い人、感じのいい人
仕事をしていると、「この人、なんか感じ悪いな」と思う人がいます。
たとえば、
「これやっといて」
「確認しといて」
「窓開けて」
そんなふうに、短い言葉だけで指示してくる人です。
もちろん、意味は伝わっています。
でも、なぜか雑に扱われている感じがする。
『言語化だけじゃ伝わんない』という本では、その理由について、「人は本来、“言葉を短くしたがる生き物”だからだ」と語られています。
人は「できるだけ短く話したい」
本書では、まず辞書の話が出てきます。
それは、調べる単語の長さよりも、説明文のほうが長いということです。
「大辞林」で「スポーツ」という単語を調べてみます。
すると説明文には、「余暇活動・競技・体力づくりとして行う身体運動」とあります。
「スポーツが好きです」という文は、「余暇活動・競技・体力づくりが好きです」と言ってもほぼ同じ意味になるということです。
でも、「スポーツが好き」と言う人はいても、「余暇活動・競技(以下略)が好き」と言う人はいません。
言葉を使うとき私たちは、「一言でまとめられるものならまとめてしまいたい」という気持ちを持っています。
――『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』より
つまり、人は本能的に、「ラクな言い方」を選んでいる。
長い説明を省略し、短いラベルへ圧縮していく。
だから、「短く話す」こと自体は、悪ではないのです。
短い言葉は便利だが、「雑さ」も生む
本書では、さらに「鎖国」という言葉の話が出てきます。
長すぎたものを翻訳者がギュッと短くまとめたのです。
この翻訳が世に出たのは十九世紀初頭。
ところが、歴史の解説書では、それより前の時代に幕府が取った一連の対外政策についても『鎖国令』と呼ぶことがあります。
正式にはそう呼ばれていなくても、この二文字が便利に使えてしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』より
つまり、人間は「複雑なものを短い言葉で処理したい」と考えています。
仕事でも同じです。
「これお願い」「例の件」「あれやっといて」と、短く言えばラクです。
ですが、その“ラクさ”が、相手には「雑に扱われている感覚」として伝わることがあるのです。
感じのいい人は、「面倒」を引き受けている
本書では、最後にこう語られています。
「窓を開けていただけないでしょうか?」と言ったほうが丁寧です。
これは、「長い言葉は話すのが面倒」ということを裏返したから起きる現象です。
長く話すというのは、言い換えれば、面倒なことをやっているのです。
だから、丁寧にも感じる。誠意があるようにも感じる。
それ以外にも、より正確に伝えるために、言葉が長くなることがあります。
でも基本的に、文章が長ければ、伝えるのにも労力がかかります。
そして同時に、伝えられる相手にも負担がかかります。
だから、もし「一言でまとめられる言葉」があって、その言葉を使ってもいい場面なら、人はそれを使いたくなってしまうのです。
これを、『できるだけ短い言葉を使いたい』の法則と呼んでおきましょう。
――『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』より
ここが、とても重要です。感じのいい人は、「短くできる言葉」を、あえて少し長くしています。
つまり、面倒を引き受けているのです。
だから、丁寧に感じる。
逆に、感じの悪い人は、「自分がラクすること」を優先してしまう。
その結果、言葉が短くなりすぎて、冷たく見えるのです。
コミュニケーションとは、「面倒を引き受けること」
『言語化だけじゃ伝わんない』は、「丁寧さ」の正体を、とても面白い角度から説明してくれます。
人は、本来ラクしたい。短く言いたい。省略したい。
でも、そこで少しだけ手間をかける。
言葉を足す。背景を説明する。相手が受け取りやすい形にする。
その“ひと手間”が、「感じのよさ」になるのです。
つまり、コミュニケーションとは、「どれだけ効率よく話せるか」だけではない。
どれだけ相手のために面倒を引き受けられるかでもあるのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。








