すさまじいスピードで進化し、社会を変えていくAI。独裁的な政治家によって破壊されつつある平和と民主主義。これらを目の当たりにした人の多くは、今の世界に「混乱の極み」を感じているはずです。しかし、マッキンゼー勤務ののち、ソフトバンクの孫正義社長のもとで長らくその未来構想力を見続けてきた安川新一郎氏は、次のように断言します。
「今という時代が変動的(Volatile)で、不確実(Uncertain)で、複雑(Complex)で、曖昧(Ambiguous)なVUCAに見えるのだとしたら、それは【これから何が起きるかを思考するための具体的な技法】を持っていないからなのです」
本連載は、その「これから何が起きるかを思考するための具体的な技法」を伝える書籍、『未来思考2045』の一部を修正して公開するものです。
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技法(4)蓋然:構造を前提とし、さまざまな視点で蓋然性の高い未来を読み解く
複雑な未来を予見するには、基本構造を整理・把握したうえで、特定の単一の未来を予測するのではなく、さまざまな未来像を「起きうる蓋然性の幅」で考えることが大切です。
蓋然性を考えるというのは、単なる確率の数値計算ではありません。予兆と構造を捉えたのちに、「事柄が実際に起こるか否か」「真であるか否か」「どの分岐が開きつつあるのか」の確実性の度合いを考えることです。また、静的な確率ではなく、前提そのものが動的に変化するなかでの確率的なゆらぎや偏りを考えることを意味します。
オーストラリアの未来学者ジョセフ・ボロスは、「未来錐(futures cone)」という概念を用い、現在(Present)からの未来を6つのPで分類しました。
それは起きうる未来を蓋然性から、
・現在からの延長(Projected)
・起こりそう(Probable)
・起きてもおかしくない(Plausible)
・起きる可能性はある(Possible)
・不可能(Preposterous)
に分けて、さらに、
・未来をより良い(Preferable)ものにするために行動する
という考え方です。そしてジョセフ・ボロスも「未来は予測するものではなく、探究するものである」と述べています。

多くの人達は日頃、数日後の株価の動きや大きな災難の発生など、さまざまな物事に漠然と思いを巡らせています。しかし職種によっては、この「未来錐」のどこに自分の仕事の本質があるのかを自覚すべきです。
たとえば、もしあなたが投資家であるなら、リスクを取り、ポートフォリオで起きてもおかしくない(Plausible)未来にまで視野と対象を広げるべきでしょう。
研究者やアーティストであるならば、これまで不可能とされていた定説を証明するために、あるいは人類がこれまで見たこともない「美」を表現するために、不可能(Preposterous)を可能(Possible)にすることが目的になるかもしれません。
そしてビジネスパーソンや政治家のように社会に働きかける仕事ならば、起こりそうな(Probable)未来を、より良い(Preferable)未来にするよう、尽力することが本質的な目的になるはずです。
蓋然性から起きうる未来を幅広く予見することは、一見当たり前のように思えます。しかし、予見された未来を直視し、冷静に判断して具体的な行動に移せる人は多くありません。
私の例で恐縮ですが、大学時代の就職活動では、世界は今後どのようになっていくのか、さまざまな人々の意見を聞き、自分なりに考えました。その際に、多くの先生や先輩が、「これからは、グローバル化の時代で英語くらいは話せたほうがよい」「グローバル競争が始まって実力主義の時代になり、日本の終身雇用もなくなり、転職が当たり前になる」と話していました。
私も同様に考えたので、(20歳まで外国人に会ったことも、海外旅行もしたことがなかったのですが)米国に留学し、就職活動では日本の有名企業の内定を断り、厳しくとも若くして実力が身に付くといわれていた外資系戦略コンサルティング会社に就職しました。
しかし多くの知人友人は、私と同じ未来像を漠然と想像はしつつも、未来に向けた具体的な行動をとらなかった記憶があります。



