すさまじいスピードで進化し、社会を変えていくAI。独裁的な政治家によって破壊されつつある平和と民主主義。これらを目の当たりにした人の多くは、今の世界に「混乱の極み」を感じているはずです。しかし、マッキンゼー勤務ののち、ソフトバンクの孫正義社長のもとで長らくその未来構想力を見続けてきた安川新一郎氏は、次のように断言します。
「今という時代が変動的(Volatile)で、不確実(Uncertain)で、複雑(Complex)で、曖昧(Ambiguous)なVUCAに見えるのだとしたら、それは【これから何が起きるかを思考するための具体的な技法】を持っていないからなのです」
本連載は、その「これから何が起きるかを思考するための具体的な技法」を伝える書籍、『未来思考2045』の一部を修正して公開するものです。
Photo: Adobe Stock
未来思考の技法(2)「予兆」:出来事、エピソードに潜む未来の変化の予兆に気づく
日本の最初の未来学者として林雄二郎はすでに紹介しました。彼はフランス留学中に、未来学についての「長期計画」や「プロスペクティブ(prospective:予見)」という概念を学んでいます。
林が師事したフランスのピエール・マッセ(*1)は「未来の不確定性には純粋不確定性と確率的不確定性の2種類あり、確率的不確定性においてはすでに変化の兆候(Signe:シーニュ)が出ており、20年くらい先まで扱える」と伝えたとされています(*2)。
*1 20世紀フランスの経済学者、実業家、公務員です。特にフランスの「計画局」の総裁として、現代フランスの計画経済-経済成長政策を主導したことで知られています。
*2 『梅棹忠夫の「人類の未来」暗黒のかなたの光明』(梅棹忠夫) 「なぜ未来を考えるのか」加藤秀俊、川添登、小松左京、林雄二郎
林はそれを踏まえて、未来を予見するにあたり、すでに存在する兆候に気づくことの大切さを訴えたのです。実際、20年先まではある程度の解像度で予見できます。
そして、未来の変化の兆候や予兆に気づくためには、選択的に自らを気づきやすい環境に置くことが大切です。自身の就職時の話になりますが、どの産業のどの企業に身を置き、どのような職種で活躍すべきか、学生の私には判断がつきませんでした。結果的に外資系コンサルティング会社に就職し、複数の業界と企業、職種を見るうちに、未来の成長業種と有望企業、そこでの自らの適性が見えてきました。
入社3年目で大手通信会社でのプロジェクトにアサインされた私は、幸運なことに、1993年にインターネットテクノロジーと出会いました。そしてこの技術が世の中を大きく変えると確信し、トップに提言したのです。
また、コンサルティング活動を通じて気づいたのが、どの業界でもナンバー1企業とそれ以下の企業では意思決定の視座と質がまったく異なることです。ナンバー1企業が、日本の国益や業界全体の発展という視座で思考するのに対して、それ以下の会社は、ナンバー1企業の動きの観察とその対応に相当なエネルギーを費やしていました。
「インターネット業界でナンバー1のポジションを目指す企業に自身の未来を賭けるべき」と考えた私は、当時米国のヤフーに出資し世界的視座でナンバー1を目指していたソフトバンクの孫社長と出会い、1999年に社長室長として転職しました。
20代に、外資系の戦略コンサルティング会社という予兆と、次に説明する構造に気づきやすい場所に身を置いたことで、結果的に未来を見通すことができたのです。
すでに紹介した、孫社長の未来のテクノロジーを選ぶ神がかった目利きの背景にも、未来の予兆に出会うための戦略的な動きがあります。
ソフトバンクは1994年の店頭公開直後、ジフ・デービス・パブリッシング等、米国のコンピュータ関連の見本市や出版社をグループに取り込みます。そして、その会長兼CEOのエリック・ヒッポーに、「インターネットテクノロジーの分野で出資すべき有望ベンチャーを1社だけ紹介しろ」と迫り、創業したばかりのヤフーの名前を引き出し、即座に投資したのです。
孫社長は当時、買収の目的を、「(ITの本場への航海にあたって)地図とコンパスを持つため」と説明(*3)していました。
*3 ソフトバンクグループホームページ「ソフトバンクグループの歩み」
未来の予兆に気づけるよう、自らの身を戦略的に適切な場所に置くことの重要性が痛感できた逸話でした。



