「社長…その手できましたか」企業スパイにまさかの対応→社長の「真の狙い」が怖すぎた!【マンガ】『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

三田紀房の起業マンガ『マネーの拳』を題材に、ダイヤモンド・オンライン編集委員の岩本有平が起業や経営を解説する連載「マネーの拳で学ぶ起業経営リアル塾」。第65回では、敵対的TOB(株式公開買い付け)の「ある側面」について解説する。

ライバル企業に「スパイ」を潜入させ…

 主人公・花岡拳が起業し、IPO(新規上場)まで持ち込んだアパレル企業T-BOXだったが、現在株価を大きく低迷させて苦戦中だ。そんな状況でライバル・一ツ橋商事の井川泰子は、花岡が持つT-BOX株を8億円で買い取ると提案する。しかし花岡は「最低でも900億円」とふっかけた価格をつけて、井川を追い払うのだった。

 花岡にナメられたと怒る井川は「敵対的TOBを仕掛けて、T-BOXを叩き潰す」と叫ぶが、部下の高野とM&A(企業の買収合併)担当の西田はそんな井川をいさめる。

 そして西田は「腹の底では領地を売り飛ばしてもいいと考えているのかどうか。それがわかれば条件を揃えやすい」と述べ、花岡の真意を探ることを提案する。

 怒りを飲み込み、冷静になった井川。その提案を了承して、すでに準備を整えてあるとしてこう語るのだった。

「忍びの者を城内に潜入させてるのよ」

 忍びの者とは前回までで共闘を約束したT-BOXの古参メンバーである、大林隆二、菅原雅弘、片岩八重子の3人のこと。井川は早速、大林に連絡を取るのだった。

敵対的TOBは、株を買う前から始まっている

漫画マネーの拳 8巻P55『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク

 感情的になった井川が叫んだ「敵対的TOB」。

 世の中のニュースで見るならば、買い手が「この価格で株を買う」と公表し、株主たちに直接売却を呼びかける場面からスタートする印象があるのではないか。だが本当の戦いは、その前から始まっている。そのことを示すのが今回のエピソードだろう。

 井川をいさめた高野と西田の言うように、買収劇では価格や買付条件といった表に出る情報だけでなく、表に出ない情報も重要だ。経営陣は一枚岩なのか。大株主は現体制を支持しているのか。社内に不満はないのか。敵対的TOBは資金力だけで押し切るものではなく、相手の守りの弱点を探る情報戦でもある。

 東芝は2021年、プライベート・エクイティ・ファンドのCVCキャピタル・パートナーズから、買収・非公開化の初期提案を受けた。その際、当時の車谷暢昭社長が以前CVC日本法人の会長を務めていたこと、さらに経営陣の維持を前提とした買収提案だったことなどもあり、アクティビストの圧力をかわす狙いではないかとの見方も報じられた。

 買収提案は外から一方的に飛んでくるだけではなく、社内の信任や経営トップの立場とも絡みながら動き出すことがある。

 そう考えれば井川が「忍びの者」と組む、つまり買収を狙う企業の内側に協力者がいることは大きな武器になる。外から見えない経営陣の本音や社内の亀裂を使って、相手の守りを崩すことができるからだ。

 花岡の出方を警戒しつつ、粛々と業務をこなす大林たち。だが花岡は彼らのもくろみを知りながらも、大林に一ツ橋商事からの買収防衛に対抗するプロジェクトの総指揮を任せるのだった。

 驚きを隠せない大林は「社長…その手できましたか」と心中でつぶやく。大林を泳がせつつ、不穏な動きを見せれば即座に切る――。そんな冷徹な狙いが透ける花岡の決断は、果たして吉と出るのか。凶と出るのか。

漫画マネーの拳 8巻P56『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク
漫画マネーの拳 8巻P57『マネーの拳』(c)三田紀房/コルク